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プロ野球

神宮ヤクルト主催試合をすべて現地観戦したライターが選ぶ「2020年記憶に残る試合ベスト5」

勝田聡

2020.12.30

 中日の攻撃が終わると、10日ほど前にブルペンへと配置転換となった斎藤コーチから受け取った力水で口を潤し、一歩ずつゆっくりと戦いの場へと向かう。何も考えることなく後ろ姿を追っていた。これまで重ねてきた900試合超の勇姿が頭に浮かんでは消えた。これが最後。相手打者に投げた1球よりも、試合後の挨拶よりも、ブルペンからマウンドへ向かったおよそ30秒が脳裏に刻まれている。

▼2位 現実を突きつけられた大卒ルーキーの投げ合い
9月19日 ヤクルト 2-3 広島

 ルーキーの吉田大喜と森下暢仁の投げ合い。吉田は初回に1点を失ったものの、その後を無失点でしのぎ5回1失点、3三振、3四球(92球)。一方の森下は7回2失点、9三振、2四球(111球)。試合は延長戦にもつれ込み、両者に勝ち負けはつかなかった。吉田の投球内容も悪くない。それでも森下の凄さが際立っていた。投球内容はもちろん、スタンドから見える範囲での立ち振る舞いも。

 同じ大卒ルーキーでもドラフト1位と2位でこうも違うのか、と試合中に何度も思ったほど。数字でしか見比べることの出来なかった2人を同じ試合で見たことで、大きな差があることが明らかになった。現実を突きつけられた衝撃。でもヤクルトファンは相手を追いかけることに慣れている。来年以降、どれだけ差を縮めることができるのか。楽しみが増えた試合でもある。
 
▼1位 乱闘劇の裏側にあったマクガフの思い
10月3日 ヤクルト 2-13 広島

 今シーズン最大の乱闘が起こった試合。ことが起こった8回裏の時点で13-0と広島が圧倒的にリードしており、ヤクルトは敗色濃厚。そんな状況の中、ブルペンで投球練習をしていたのがマクガフだった。常識的に考えて勝ちパターン継投を任されている外国人投手に、この場面で投げさせることはありえない。下手をすればプライドを損ねる可能性だってある。

 大丈夫なのか……と思っていた矢先、斎藤コーチがベンチからブルペンへ出向き、通訳を交えて言葉を交わしていた。通常、ベンチにいる投手コーチが試合中にブルペンへと出向き言葉をかけることはない。MLB経験のある斎藤コーチのことだ。きっとマクガフを思い、先手を打って声をかけたのだろう。

 その直後に「あの」乱闘劇が起きた。数多くの記事や映像が出回っており、改めて詳細を記すつもりはない。

 両軍が一触即発の雰囲気になったその瞬間、その最前線へグローブを途中で投げ捨て、一目散に最前線に駆けつけたのがマクガフだった。ブルペンからおよそ80メートルくらいだろうか。この2年間で1度しか打席に立ってないマクガフの全力疾走。それは仲間を思う戦士そのものだった。

 乱闘の起こる直前に斎藤コーチがマクガフを思い言葉をかけ、そのマクガフが仲間を思い走り出した。しばしばヤクルトはアットホームな雰囲気、ファミリー球団と言われるが、その根底にあるのは仲間を思う気持ちであるはずだ。そのチームカラーは在籍1年目のコーチ、そして外国人選手にも受け継がれている。

取材・文●勝田聡

【著者プロフィール】
かつた・さとし/1979年生まれ、東京都出身。人材派遣業界、食品業界で従事し30代後半で独立。プロ野球、独立リーグ、MLBなど年間100試合ほど現地観戦を行っている。2016年から神宮球場でのヤクルト戦を全試合観戦中。
 

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