大殊勲の一発にも乙坂は淡々と試合をこう振り返っている。

「（岩崎投手とは）対戦が初めてだったので、イメージは湧かなかったんですけど、２イニングの登板だったので、球筋とかを見て、こういう感じだろうなとイメージを持って打席に入りました。あれだけ成績を残している投手なので、あれこれ考えるよりも自分のスイングをしようと。来た球に対して強くコンタクトしようと思った。勝ったことに対しては、選手を含めていろんな方の力で勝てたと思う。自分の結果で勝ったのも嬉しいけど、チーム全員で勝ち取った勝利だと思います」
  　送りバントや進塁打などが想定されるケースだった。
　だが、それでも乙坂がフルスイングを貫けたのは頑なな指揮官の作戦があったからだろう。

　乙坂によるサヨナラ本塁打の幕切れは劇的なものだったが、シリーズの結果は１勝１敗と振り出しに戻っただけだ。第３戦もまた、痺れるような試合が続くだろう。

文●氏原英明（ベースボールジャーナリスト）

【著者プロフィール】
うじはら・ひであき／1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園という病』（新潮社）、『メジャーをかなえた雄星ノート』（文藝春秋社）では監修を務めた。