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高校野球

“真の全員野球“が体現された2年ぶりの甲子園は、勝利至上主義から脱却する第一歩に

氏原英明

2021.04.02

 2020年は新型コロナウイルスの感染拡大によって、春・夏の甲子園は中止を余儀なくされた。それまで目標としてきた大会がなくなったことで、選手たちは途方にくれた。指導者もかける言葉が見つからず、全国の野球関係者が悩んだ1年でもあった。そんな中で、一時は中止となった夏の各府県大会は「独自大会」という形で実施。「3年生の多くを試合に出してやりたい」と、私学・公立に関係なく、多くの指導者が心持ちを変えた。

 そんな中でさまざまな発見があり、適材適所のチームづくりが日本全体で大きな気運となった。かつては光星学院、現在は明秀日立で指揮を取る金沢成奉監督は「選手全員を出すことを目指したことで、子どもちのいろんな良さを発見することができた」と語る。選手の資質を見極められていなかったのは指揮官の方で、それは目先のチームづくりに囚われたからに他ならない。

 昨夏の甲子園交流大会では出場校で唯一、ベンチ入りメンバー20人全員を出場させた明豊の川崎絢平監督は、「全員出場を目指すチームの方が強くなる」と力説する。

「適材適所で選手の活躍の場がある。こういう特色を持てば試合に出られると思ってくれれば、チーム内で競争が生まれる。そういう環境を作っていることが、チームが強くなる要素だと思っています」
 
 レギュラーだけがいい思いをするのではなく、ベンチ入り選手全員が出場機会を得ることで“チーム”で成長していく。競争と成長がセットになっていたのが今大会の特徴だった。明豊、そして大黒柱の主将が離脱してもチーム力を落とさずに優勝した東海大相模の成果は、高校球界に一つのメッセージを送ったような気がしてならない。
 
 東海大相模の門馬敬治監督はいう。

「僕は試合に出る者がレギュラーだと思っています。背番号が一ケタだからレギュラーではなくて、今、試合に出ている選手がレギュラーです。一方、練習グラウンドではレギュラーも補欠もいない。すべての人間が上達できる。そのつもりで取り組んでいるし、選手はその気持を持ちながらやってくれていた。だからこそ、大塚の離脱があっても、大きなミスもなく、選手層として扱われるくらいにやってくれたかなと思います」

 東海大相模は関東地区5番目の選出だった。成績からすれば落選もあり得たわけだが、レギュラーだけではなく、それぞれの選手の切磋琢磨あってこそ這い上がってきた。

 これからの高校野球界に必要なのは、野球選手全員が野球の楽しみを得ることではないか。

 2年ぶりの甲子園はそんな“真の全員野球”を見ることができた大会だった。

取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)

【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園という病』(新潮社)、『メジャーをかなえた雄星ノート』(文藝春秋社)では監修を務めた。

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