1回に159kmを連発して押し込んだかと思うと、3、4回から変化球を駆使し始めたのである。しかも、それはまるで餌をまいているようでもあった。
千賀もこう振り返っている。
「3回にピンチを迎えた場面では、(甲斐)拓也から『全球種を使っていくぞ』という話があった。拓也を信じて投げることができた」
そして、圧巻は6、7回だった。
千賀は2回以降、エンジンの回転数をやや下げた。というより、1回に全速力で巨人打線に立ち向かい、2回以降は平常運転に戻したというだけなのだが、6回になるとまたその回転数を上げたのである。
先頭の2番・坂本勇人をストレートでセカンドゴロに打ち取ると、3番の丸は、158kmのストレートで空振り三振。岡本はストレートを詰まらせて右翼フライに打ち取った。
「初回は0で終わることを一つのテーマとして臨んだんですけど、3回は攻めるところは攻め、外すところは外すという中でしっかり投げ切れた。(6回の)上位打線は繋がると大量得点になると思ったので、意識して投げた」 7回は2死を取りながらピンチを迎えた。
7番のゲレーロに粘られて右翼前安打を許すと、続く田中俊太にストレートを左翼前へ弾き返された。これを左翼手のグラシアルがファンブルしている間に、2、3塁とされたのである。
そして、9番・小林に代打・重信慎之介が送られた。
千賀―甲斐のバッテリーがここで選んだのは、カットボールの連投だった。
ボールカウント2ボール1ストライクからカットボールで空振りを取ると、続けてカットボールを投じて見逃し三振。5球中4球がカットボールの徹底ぶりだった。
甲斐はカットボールの多投理由をこう説明している。
「今日はフォークが思うように投げられていませんでした。その中でも、カットボールをしっかり投げ切れていました。(重信の場面は)今日の千賀の状態と相手の反応を見て、あの打席は攻めましたね。左バッターの足元に投げ切ってくれた」
現地の取材で記した手元の集計では、この日、千賀が投じた106球の内訳をまとめると、ストレートが47球で、カットボールが31球、フォークが18球、スラーブが10球だった。
このデータが明らかにしているように、今の千賀はカットボールがピッチングの主流を占めつつある。この球種があるから大崩れしないのである。序盤は調子が良くなかったものの、カットボールで組み立て、少しずつスラーブ、フォークを挟んでいった。ピッチングが整理されていくと、またカットボールで挑んでいったのが、この日の千賀だった。
千賀=おばけフォークだけではない。
シーズン中にも見せてきた、千賀の投手としての高みを、この日本シリーズでも見せつけるピッチングだった。
取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)
【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園という病』(新潮社)、『メジャーをかなえた雄星ノート』(文藝春秋社)では監修を務めた。
千賀もこう振り返っている。
「3回にピンチを迎えた場面では、(甲斐)拓也から『全球種を使っていくぞ』という話があった。拓也を信じて投げることができた」
そして、圧巻は6、7回だった。
千賀は2回以降、エンジンの回転数をやや下げた。というより、1回に全速力で巨人打線に立ち向かい、2回以降は平常運転に戻したというだけなのだが、6回になるとまたその回転数を上げたのである。
先頭の2番・坂本勇人をストレートでセカンドゴロに打ち取ると、3番の丸は、158kmのストレートで空振り三振。岡本はストレートを詰まらせて右翼フライに打ち取った。
「初回は0で終わることを一つのテーマとして臨んだんですけど、3回は攻めるところは攻め、外すところは外すという中でしっかり投げ切れた。(6回の)上位打線は繋がると大量得点になると思ったので、意識して投げた」 7回は2死を取りながらピンチを迎えた。
7番のゲレーロに粘られて右翼前安打を許すと、続く田中俊太にストレートを左翼前へ弾き返された。これを左翼手のグラシアルがファンブルしている間に、2、3塁とされたのである。
そして、9番・小林に代打・重信慎之介が送られた。
千賀―甲斐のバッテリーがここで選んだのは、カットボールの連投だった。
ボールカウント2ボール1ストライクからカットボールで空振りを取ると、続けてカットボールを投じて見逃し三振。5球中4球がカットボールの徹底ぶりだった。
甲斐はカットボールの多投理由をこう説明している。
「今日はフォークが思うように投げられていませんでした。その中でも、カットボールをしっかり投げ切れていました。(重信の場面は)今日の千賀の状態と相手の反応を見て、あの打席は攻めましたね。左バッターの足元に投げ切ってくれた」
現地の取材で記した手元の集計では、この日、千賀が投じた106球の内訳をまとめると、ストレートが47球で、カットボールが31球、フォークが18球、スラーブが10球だった。
このデータが明らかにしているように、今の千賀はカットボールがピッチングの主流を占めつつある。この球種があるから大崩れしないのである。序盤は調子が良くなかったものの、カットボールで組み立て、少しずつスラーブ、フォークを挟んでいった。ピッチングが整理されていくと、またカットボールで挑んでいったのが、この日の千賀だった。
千賀=おばけフォークだけではない。
シーズン中にも見せてきた、千賀の投手としての高みを、この日本シリーズでも見せつけるピッチングだった。
取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)
【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園という病』(新潮社)、『メジャーをかなえた雄星ノート』(文藝春秋社)では監修を務めた。