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MLB

“必然”だった筒香嘉智の事実上の戦力外。勝利貢献度は通算マイナス、150キロ超4シームに打率.091、非力な長距離砲

新井裕貴(SLUGGER編集部)

2021.05.12

うまくいかない悪循環からか、打席アプローチも悪化するなど良さが消えていった。(C)Getty Images

うまくいかない悪循環からか、打席アプローチも悪化するなど良さが消えていった。(C)Getty Images

【2】打席アプローチも悪化

 先述の通り、筒香の1年目の最大の魅力は選球眼だった。四球率14.1%はリーグ12位(150打席以上)であり、ボール球スウィング率17.2%も上位に入るなど、ボールの見極めはかなり優秀だったのだ。しかし、今季は四球率が9.2%まで下降。この数字自体が悪いわけではないけれども、ボール球スイング率がメジャー平均を上回る29.6%まで悪化していた。

 印象的なシーンが4月5日のボストン・レッドソックス戦だった。筒香はこの試合の8回に今季初ヒットとなる、グリーンモンスター直撃打を放った。問題はその前の打席だ。レイズは3点を追う5回表に無死一二塁で筒香に打席が回ってきた。カウント2-2からの高めのスライダーは明らかなボールゾーンだったが、手を出して空振り三振。反撃ムードも消えて1点も取れずに終わると、筒香が初安打を打った時はすでに0対8と大差がついていた。

【3】「パワーのない」長距離砲

 メジャー1年目の開幕戦、筒香が好投手リュ・ヒョンジンからいきなり本塁打を放った時、誰もがそのパワーに心を動かされたはずだ。そして打率こそ低かったものの、デビュー108打席目で6号アーチを放ち、この時点での本塁打数は2018年の大谷翔平と並ぶ数字だった(大谷は86打席目で6号も、7号は148打席までかかった)。

 しかしご存知の通り、今季は87打席に立ってゼロ本塁打。10日の試合終了時点で今季80打席以上の選手は計236人いるが、同じゼロ本は筒香を含めて15人いる。もっとも、ほとんどが二遊間やセンターといった守備で重要度の高い選手。レフト、一塁といったパワーバットとなると、筒香のほかに一塁手のアンドリュー・ボーン(シカゴ・ホワイトソックス)もいるが、彼は2019年ドラフト全体3位指名の有望株。筒香とは意味合いが大きく異なる。
 
 さらに衝撃なのが「ISO」の低さ。いわゆる長打率は長打を打つ確率ではなく、塁打期待値を示し、シングルヒットも含まれる。ISOは「長打率-打率」の計算式で、長打率から単打を除外する形で計算されるため、打者の長打力を示す指標だ。

 そして筒香の今季のISO.051はメジャーワースト9位(80打席以上)。悲しいかな、メジャーでも“非力”な選手ということになる。にもかかわらず、三振率31.0%と1年目より悪化していたのも痛かった。ちなみに、本塁打王トップタイの大谷のISOは.336で、メジャー全体4位に位置している。

【4】勝利貢献度はマイナスの投資失敗

 打撃で貢献できないならば、守備・走塁を生かすという道もあるが、これは筒香の苦手分野。メジャーで最も重要視されている、勝利貢献度を示す「WAR」という指標がある。これは野手投手問わず同じスケールで扱うことができ、あらゆる要素を含めた総合的なデータだ。

 そして筒香の通算WARは、主要データサイト『FanGraphs』も『Baseball-Reference』(『BR』)の両媒体ともマイナスで、それぞれ-0.2、-0.3。『BR』版では全869選手中で845番目という低迷ぶりだった。

 FA市場で選手を獲得する際に、1WARあたり500~600万ドルとの試算がある。果たして筒香の年俸は1年目が500万ドル(WAR0.3)、2年目が700万ドル(WAR-0.6)であり、投資案件として見れば、完全な失敗銘柄と言わざるを得ないものだった。

 ポスティングを決めた会見にて、筒香は「メジャーは世界の素晴らしい選手が集まっている場所ですし、本当に世界一レベルが高い場所だと思っています」と語っていた。初めてゲームを買ってもらったような、嬉しそうなキラキラした目をしていたのも印象深い。そしてあれから約1年半後、メジャーのレベルの高さを自ら証明した形になってしまった。

 今後、筒香がマイナーで奮闘して再びメジャーを目指すのか。それとも、今季年俸はレイズが負担することを考え、他球団が獲得することもあり得るだろう。はたまた日本球界復帰もない話ではない。いずれの選択を取るにしろ、筒香が憧れの舞台で見たその光景は大きな糧になるはずだ。今後の道に、注目していきたい。

構成●新井裕貴(THE DIGEST編集部)
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