一方で、打者側のアプローチはこうした変化にまだ適応できていない。ここ数年、確実性を犠牲にしても長打を狙うフライボール打法が流行しているため、三振数は年々増加傾向にあるが、今季も4月時点で6924三振と増加(19年4月は6799個)している。空振り率27.1%も、データが収集されるようになった15年以降では最高の数字だった。逆に投手は速球の平均時速が92.7マイル(約149.2キロ)に達していて、こちらも過去最速だ。
つまり現在起きている状況は、まとめると下記のようになる。
【1】打者は相変わらずホームラン狙いのスウィングをしているにもかかわらず、打球が飛ばなくなっている。
【2】投手の球はますます速くなっているので、バットに当たらなくなっている。
これではヒットが出にくいのも当然だ。
ならば、「打者は振り回すのを控えて、コツコツ当てるようにすれば問題は解決するのでは?」と思われるかもしれないが、そう簡単にはいかない。せっかく身につけた打撃フォームや、打席でのアプローチを容易く変えるわけにもいかず、得点効率の低い単打をわざわざ狙おうとは、そもそもメジャーの打者たちは考えないからだ。こうして「ノーヒッターを達成するための完璧なレシピ」(『スポーツ・イラストレイテッド』のフランク・セルビー)が出来上がったというわけだ。
結果として、メジャー全体での4月の月間打率は.232。これは史上最低だった1968年の.237すら下回る数字で、タイガースなどは.199と、まるで全員が投手でもあるかのような数字になっている。
なお、68年はボブ・ギブソンが年間防御率1.12の大記録を樹立するなど、メジャーの歴史上有数の投高打低のシーズンで、「投手の年」とも呼ばれている。あまりにも点が入らなかったため、事態を危惧したMLBは、打者有利になるように、翌年からマウンドの高さが変えたという経緯がある。
ノーヒッター量産は一時的な現象にとどまらず、今季は68年のような快記録が生まれる年になるかもしれない。その逆に、ホームラン狙いのスウイングが見直され、イチローのようなラインドライブを打つ打者の重要性が再認識されるきっかけとなることも考えられる。どちらの方向に転がるにしても今後の成り行きが注目される。
文●出野哲也
【著者プロフィール】
いでの・てつや。1970年生まれ。『スラッガー』で「ダークサイドMLB――“裏歴史の主人公たち”」を連載中。NBA専門誌『ダンクシュート』にも寄稿。著書に『プロ野球 埋もれたMVPを発掘する本』『メジャー・リーグ球団史』(いずれも言視舎)。
つまり現在起きている状況は、まとめると下記のようになる。
【1】打者は相変わらずホームラン狙いのスウィングをしているにもかかわらず、打球が飛ばなくなっている。
【2】投手の球はますます速くなっているので、バットに当たらなくなっている。
これではヒットが出にくいのも当然だ。
ならば、「打者は振り回すのを控えて、コツコツ当てるようにすれば問題は解決するのでは?」と思われるかもしれないが、そう簡単にはいかない。せっかく身につけた打撃フォームや、打席でのアプローチを容易く変えるわけにもいかず、得点効率の低い単打をわざわざ狙おうとは、そもそもメジャーの打者たちは考えないからだ。こうして「ノーヒッターを達成するための完璧なレシピ」(『スポーツ・イラストレイテッド』のフランク・セルビー)が出来上がったというわけだ。
結果として、メジャー全体での4月の月間打率は.232。これは史上最低だった1968年の.237すら下回る数字で、タイガースなどは.199と、まるで全員が投手でもあるかのような数字になっている。
なお、68年はボブ・ギブソンが年間防御率1.12の大記録を樹立するなど、メジャーの歴史上有数の投高打低のシーズンで、「投手の年」とも呼ばれている。あまりにも点が入らなかったため、事態を危惧したMLBは、打者有利になるように、翌年からマウンドの高さが変えたという経緯がある。
ノーヒッター量産は一時的な現象にとどまらず、今季は68年のような快記録が生まれる年になるかもしれない。その逆に、ホームラン狙いのスウイングが見直され、イチローのようなラインドライブを打つ打者の重要性が再認識されるきっかけとなることも考えられる。どちらの方向に転がるにしても今後の成り行きが注目される。
文●出野哲也
【著者プロフィール】
いでの・てつや。1970年生まれ。『スラッガー』で「ダークサイドMLB――“裏歴史の主人公たち”」を連載中。NBA専門誌『ダンクシュート』にも寄稿。著書に『プロ野球 埋もれたMVPを発掘する本』『メジャー・リーグ球団史』(いずれも言視舎)。