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プロ野球

代走「周東佑京」の脅威。その確実な仕事が、投手戦の均衡を破った【日本シリーズを読み解く/第2戦】

氏原英明

2019.10.21

 周東の狙いは見事にハマった。

 マウンド上の大竹寛は、幾度も牽制を挟んだのだ。

 大竹はプロ野球選手の中で牽制はうまい方だし、クイックも指折りの速さを誇っている。自信を持っているからこそ、走者を一塁に留まらせたい、その思いは強かったに違いない。

 しかし・・・制球が定まらなかった。

 大竹は唇を嚙む。

「代走が出てくる場面は、状況に合わせたピッチングをしていくことは大事だと思う。ただ、あの場面はカウントを悪くしてしまったところは反省しないといけない」

 グラシアルに対する、2ボール1ストライクからの投球を注視して見ていたが、巨人バッテリーは変化球を選択した。

 それまでストレート系(シュートを含む)を投げて制球を乱していた。このカウントでもストレート系を投げれば、グラシアルの打棒の餌食になると思ったのだろう。とはいえ、周東もいたわけだから、相当に追い込まれていたはずだ。結局、4球目のスライダーは外れ、大竹は投げる球がなくなった。

 3ボール1ストライクからの5球目、周東はスタートを切った。グラシアルも強振した。

 打球は左中間で弾み、相手の守備はグラシアルの長打に備えていたから、一塁走者の周東に課せられた二つの目の仕事はそう難しいものではない。

 無死1、3塁、先制点が欲しい場面で完璧な形を作った。

 そして続く6番、松田宣浩がセンターオーバーの3点本塁打。均衡を破る3得点は試合を決めたといってよかった。

 それを演出したのは紛れもなく周東だった。

 2試合連続して代走として試合に出場している。その度、球場は割れんばかりの拍手に包まれる。そして、今日は「走れ、走れ」のコール。「歓声を聞かないようにしている」周東だが、塁上に存在することの意義がある選手というのは、球界の中でそういるものではない。
 日本ハムの西川遥輝、西武の源田壮亮がそんな存在として球界に君臨している。彼らは、常に次打者の配球を助け、自らも盗塁を決める、そんな選手だが、周東がその役を、この大舞台・日本シリーズで見せたのだ。

「投手に意識させて、こっちに向けばな、と。予想通りというか、一番いい形でプレッシャーをかけられたんじゃないかなと思う。今日に限っては、盗塁を決めるというより、意識をこっちに向けることに重きを置きました。」

 美白のスピードスターはそういってはにかんだ。

 塁上にいることが存在感になる。
 そんな立ち位置がある。
 ソフトバンクの強さは一発攻勢だけではなく、周東のようなオプションがあることに他ならない。

取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)

【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園という病』(新潮社)、『メジャーをかなえた雄星ノート』(文藝春秋社)では監修を務めた。

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