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プロ野球

「勝負所の4回」に動いたソフトバンクと動かなかった巨人。明暗を分けた両指揮官の決断と思惑【日本シリーズを読み解く/第3戦】

氏原英明

2019.10.23

 遅れた継投――。
 結果だけで振り返ると、そう言わざるを得なかった。

 しかし、その腹を探ってみると、戦術上、変えてはいけない場面であったのもまた事実だった。

 というのも、この日のソフトバンクは柳田を除いて、右打者を並べていたからだ。

 巨人の先発がサウスポーの高橋優貴だった。さらにDHがないため、一人野手を削らなければならず、牧原大成、中村晃がベンチにいた。つまり、この二人に明石健志と福田秀平と加えた4人の左打者がベンチで控えていたわけである。

 いつまでも彼らをベンチにとどまらせていては、終盤の勝負所に出てくる。相手がさらなる勝負手を打ってきたときに対抗しなければいけない。そのためには、4回の時点で相手の積極采配に対応して、策を講じるのではなく、自チームが有利に働くように運ぶ必要があったのだ。

 だから、1番の代打・長谷川のところで原監督は動かなかった。

 「思い描いていた通りの継投策だった」

 試合後の原監督だ。
 高橋の早期降板を「思っていた」というわけではないだろうが、可能性は頭に入れていたということだろう。そうなった場合、左投手の後は右投手を登板させて、相手が右打線になっている弱点を突く、あるいは、代打攻勢を早めさせることが必要だった。
 
 ルーキー右腕に全てが託されていた。

「四球とエラーがあると、そういう展開になりますね」

 これも、原監督の言葉だが、戸郷の持ち味を消したのは、回の先頭・松田を持ち前のカットボールで三振に切りながら、内川の一打を浴びてからだ

 戸郷が唇を嚙む。

「引きずらないように投げようと思ったんですけど、内川さんの1本っていうのは、三振を取れたと思ったのに打たれた。そこで気持ちが落ちてしまった。ああれより下だと振ってくれないので、徐々にストライクゾーンを上げることになった。スライダーが浮いたのを打たれたのがデスパイネのヒットだった」

 内川の一打から動揺したと同時に、制球がどんどん甘くなって、その球を打たれて4失点という展開には野球の流れの妙が確実に存在していると言えるだろう。

 工藤監督はこの一連の流れの中で仕掛けた。
 だが、原監督にも狙いがあった。
 
 ただ、巨人側からいえば、ルーキーには荷が重すぎたということになろう。

 両指揮官の決断がこの日の試合の行方に作用したことは間違いなかった。

取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)

【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園という病』(新潮社)、『メジャーをかなえた雄星ノート』(文藝春秋社)では監修を務めた。

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