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MLB

究極の打者天国で交差する大谷翔平と野茂英雄。ホームラン・ダービーを前に思い起こすべき25年前の奇跡<SLUGGER>

出野哲也

2021.06.22

 完封試合すら過去14回しか記録されていないこの打者天国で、ノーヒット・ノーランが達成されるなど奇跡の中の奇跡と言っていい。その奇跡を現実に起こしたのが、野茂英雄(当時ドジャース)だった。96年9月17日、ロッキーズの打者30人に対し、四球こそ4つ与えたもののヒットは1本も許さなかった。40本塁打以上のスラッガーを3人擁し、打率・出塁率・長打率のすべてでリーグトップだった強力打線を、最も打者有利の球場で完全に封じ込めたのだから、快挙以外の何物でもない。

 前年の95年にドジャースに入団して13勝、リーグ最多の236三振を奪い新人王に選ばれた野茂は、2年目もこの時点でチームトップの15勝。だがクアーズでの2試合では9.2イニングで16失点と、こっぴどく打ち込まれていた。ただしこの日は雨模様で、試合開始が予定から2時間ずれ込んだ。前述したように、湿度が高いとそれだけボールは飛びにくくなるので、少しだけ野茂にとって有利な材料であった。

 初回に四球で走者を出し、二死三塁のピンチを迎えるも前年の二冠王ダンテ・ビシェットを三振に切って取る。2、4、6回も先頭打者を歩かせたのは野茂らしいと言えたが、足元の悪さからトルネード投法ではなく、セットポジションでの投球に変えたおかげで制球が安定。持ち前の三振奪取能力に加えて、自らの牽制などでもアウトを積み重ねていく。打線もコンスタントに得点して援護し、8回表には野茂自身もタイムリーヒットを放った。
 
 9-0の大量リードで迎えた9回裏は、最初の2人を続けて二塁ゴロに打ち取り2アウト。ロッキーズファンも、大記録達成を目の前に、総立ちで野茂に声援を送っていた。打率.343の3番打者、エリス・バークスに投じたこの日の110球目は代名詞であるフォークボール。バークスのバットは空を切り、軽く右の拳を握って喜びを表した野茂の周りにはたちまちドジャースナインが集まって、彼を抱え上げ観客からの拍手に応えさせた。

 本人の感想は「信じてもらえないかもしれないが、試合に勝つことだけを考えていたから、ノーヒットより勝てたことがうれしい」と、いつもの野茂らしい冷静なものだった。むしろチームメイトの方がその凄さを認識していた。一塁手のエリック・キャロスが「日本の人たちは分からないかもしれないけれど、賭けてもいいが二度とこんなことは起こらないだろう」と語った通り、その後この球場でのノーヒッターは一度もない。

 ドジャース戦の名実況アナウンサー、ビン・スカリーが言ったように「野茂は不可能と考えられていたことを成し遂げた」。その偉業から25年を経た今、毎日のように「不可能と考えられていたことを成し遂げ」ている大谷が、クアーズ・フィールドで新たな伝説を打ち立ててくれることを期待したい。

文●出野哲也

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【著者プロフィール】
いでの・てつや。1970年生まれ。『スラッガー』で「ダークサイドMLB――“裏歴史の主人公たち”」を連載中。NBA専門誌『ダンクシュート』にも寄稿。著書に『プロ野球 埋もれたMVPを発掘する本』『メジャー・リーグ球団史』(いずれも言視舎)。
 
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