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MLB

「シーズン10本塁打&10勝」はルースが最後ではない?人種差別是正の名の下で歴史を書き換えるMLBへの疑問<SLUGGER>

出野哲也

2021.07.09

 研究者たちが丹念に新聞記事などを精査し、かなりの程度まで成績は復元されてはいるが、まだ完全ではない。当時のニグロリーグは選手層が薄く、投手と野手を兼任した者は珍しくなかったので、ローガン以外にも年間2ケタ勝利&2ケタ本塁打を記録した者がいた可能性もゼロではない。

 昨年12月、MLB機構は1920~48年に活動していた7つのニグロリーグを「メジャーリーグ」と認定した。折からのBLM運動の高まりを受けてのことである。人種的偏見によって白人球界から締め出された黒人選手たちを正当に評価する「政治的に正しい」(ポリティカル・コレクトネス=PC)決定は概ね好意的に受け止められた。

 しかしその結果、不都合な点も生じた。例えば大選手ウィリー・メイズの生涯安打数はずっと3283本だったのが、ニグロリーグ時代の10本が加算されて3293本に増えた。47年にジャッキー・ロビンソンがドジャースでデビューした4月15日は、今では野球界の枠を超えてアメリカ社会全体でも重要な一日とされているが、これもニグロリーグ時代に遡り「45年のいつか」に変わってしまうことになる。
 
 また、41年に打率.406を記録したテッド・ウィリアムズは「最後の4割打者」として知られているが、これもニグロリーグをメジャーとすると48年のウィラード・ブラウン(.404)が最後になる。年間最高打率も43年にテテロ・バルガスが記録した.471になる。これまでМLBの歴史において重んじられてきた様々な日付や記録が、次々と覆り始めているのだ。

 ニグロリーグのトップスターに、白人球界の名選手と同等かそれ以上の力量があったのは、誰もが認めている。しかしリーグ全体ではどうだろうか。B-Rによると、20~48年に年間打率4割を記録した白人球界の打者は9人しかいないのに、黒人打者は33人にも上る。これは、当時のニグロリーグとМLBに実力差があった何よりの証拠ではないか。メジャーリーガーが3Aやメキシカン・リーグでプレーすれば打率が高くなるのと同じ理屈だ。例えばブラウンは、47年にセントルイス・ブラウンズで21試合に出ているが、67打数12安打の打率.179に終わっている。打数が少ないので、直ちにブラウンの実力を示しているとは判断できないが、ニグロリーグで4割を打った者の数字とは思えない。

 こうしてみると、MLBがニグロリーグをメジャーリーグとして認定し、記録を合体させたのが本当に正しかったのか疑問も沸く。

 2つのリーグは別種のものとして発展し、成り立ちから興行の形式まで何もかもが違った。人種差別の歴史を反省しようという意思自体は評価すべきだが、ニグロリーグ=メジャーリーグとは考えられていなかった歴史的事実を置き去りにし、あたかもそうであったかのように振舞うのは、却ってニグロリーグの価値や事績を軽んじることになりはしないだろうか。

文●出野哲也
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