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MLB

予定外の二刀流、同僚からの嫉妬…史上唯一の「10勝&10本塁打」を成し遂げた1918年のベーブ・ルース<SLUGGER>

出野哲也

2021.06.30

 チームメイトの中にもルースの二刀流に肯定的でない者がいて、バットを叩き割られるなどのいやがらせも受けた。ルース自身の生意気さも理由だったろうが、彼のとてつもない才能が嫉妬の対象になっていたのだ。

 主戦投手のダッチ・レナードが軍需工場で働くことになり、8月から再びローテーションに組み入れられても、ルースの野手起用は続いた。ただ、7月以降の52試合でホームランは1本もなし。疲労が影響していた可能性は大いにあり、ルースも「ローテーション投手とレギュラー野手を両立させるなんて無理だ。今は若いからできているけど、何年も続けられる保証はできない」と述べていた。

 18年の最終成績は、投手として20試合で13勝7敗、防御率2.22、打者としては95試合で打率.300、リーグ最多タイの11本塁打(うち“リアル二刀流”で2本)、長打率.555とOPS.966も1位だった。ワールドシリーズでも2戦2勝、防御率1.06の好投で世界一の立役者になったが、打者では1試合も出なかった。
 
 ところで、18年のルースは投手と打者のどちらが価値が高かったのか。「俺が4日に一度投げるより、毎日野手で出た方がチームも勝てるはずだ」とルースが主張していた通り、勝利貢献度を示すWARを見ると、投手2.5/野手4.7で倍近く違う。チーム本塁打15本のうち11本を一人で叩き出したルースに匹敵する打者は他にいないが、同じ程度の実力を持つ投手は何人もいた。

 こうした状況を考えても、ルースの望み通りずっと野手として使う方がメリットは大きかった。翌19年も投手として17試合で9勝を挙げたが、打っては29本塁打でメジャー記録を更新。もはや打者としての価値がずっと高いことが誰の目にも明らかになった。

 20年にヤンキースへ移籍してからのルースは散発的にしか投げなくなった代わりに、本塁打王12回、通算714本という史上最強打者としてのキャリアを積んでいった。なおバーロウもその後ヤンキースの球団社長となり、いつの間にか“ルースを打者として花開かせた、洞察力に富んだ人物”として評価されるようになった。

 ルースが本格的な二刀流選手としてプレーしたのはたった2年間に過ぎない。そう考えると、大谷の投打にわたる活躍を日々目の当たりにしている私たちは、文字通り「歴史の目撃者」となるのかもしれない。

文●出野哲也

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【著者プロフィール】
いでの・てつや。1970年生まれ。『スラッガー』で「ダークサイドMLB――“裏歴史の主人公たち”」を連載中。NBA専門誌『ダンクシュート』にも寄稿。著書に『プロ野球 埋もれたMVPを発掘する本』『メジャー・リーグ球団史』(いずれも言視舎)。
 
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