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高校野球

「球数を少なくするコツは初球ストライク」“新時代のピッチング”を垣間見せた東明館・今村珀孔の「マダックス」への期待<SLUGGER>

氏原英明

2021.08.11

 身長は173センチ。投手の中ではさほど大きくない部類だ。ストレートもこの日の最速は135キロ。それほどスピードがあるわけではないのに今村のピッチングを際立たせるのは、およそ116キロのカットボールだ。この球種がうまく投げ分け、ストレートを引き立たせていた。

 初回は打者3人を全て三塁ゴロに打ち取る小気味のいいスタート。これでリズムに乗ると、5回までヒットはたった1本しか許さなかった。中でも4回はたった5球で三者凡退に片付け、続く5回も同じく3人を8球で料理と圧巻のテクニシャンぶりを発揮していた。

「初めての舞台でも物怖じせず持ち味を発揮していた。県大会の決勝が彼のベストピッチだと思っていましたけど、それを超えるくらいのピッチングをしてくれた」

 エースの堂々たる投球に、東明館の豊福弘太監督も手応えを感じていたようだった。
 
 しかし6回に入り、今村は先制を許してしまう。先頭のヴァデルナにセンター前ヒットを許すと、続く1番の久次米陸士もバントヒットで出塁。バントで走者を進められて1死二、三塁のピンチを作った後、3番のエドポロ・ケインを何とか三塁ゴロに抑えるものの、打席に4番の和泉颯馬を迎えたところでところでダブルスチールを決められた。失点1。この時点で「マダックス」の夢は潰えた。

 それでも今村は踏ん張った。7回裏には1死二塁のピンチの場面で2者連続内野ゴロに抑えて無失点。8回は得意のカットボールが浮いてしまったところを狙われ、連打を浴びてさらに3点を失う。ここで力尽きた。

 接戦からの追加点。展開は絶望的といえた。東明館打線はエースの好投に報いることができず、1点もあげられずに無念の初戦敗退。だが、今村の91球の熱投は、球速がなくてもストライクゾーンで勝負できるという、お手本のようなピッチングだった。
 
 試合後、今村は唇を噛みしめた。

「8回に関してはずるずるいってしまったけど、カットボールでコーナーを突くことができていた。それが真っ直ぐを打たれたヒットが少なくなった要因につながったと思います。終盤になってくると腕が振れなくて、カットボールが甘いコースにいく傾向が出てきたので、9回まで投げきれるスタミナをつけて帰ってきたい。失点を計算して終盤に勝負をするのが東明館の野球。来年もこれを継続して、相手より1点を先に奪えるチームになりたい」

 今村はまだ2年生。甲子園に来るチャンスは、あと2度ある。精密なピッチングにさらに磨きをかけ、次こそは「マダックス」の達成を期待したいものだ。

取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)

【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園という病』(新潮社)、『メジャーをかなえた雄星ノート』(文藝春秋社)では監修を務めた。
 

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