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MLB

日本と違う独特の「間」――筒香嘉智、新天地で結実したアメリカ野球への適応<SLUGGER>

ナガオ勝司

2021.09.22

 ただし、そう言いながらも彼は、こう続けている。

「結果的に始動が変わっていると思うんですけど、僕の感覚では日本の間とアメリカの間というのはまったく違いましたので、その違いに順応できたのかなと思います。パイレーツに来て打ってますので、パイレーツが合ってるという表現はよくされるんですけど、もちろん合ってない合ってるというのはまた別の話で。ドジャースのマイナーの時からのことが今、表現できているということですので、それだけのことではないと思います」

 メジャーリーグの投手たちは平均的に、日本プロ野球の投手たちより投球フォームも投球間隔も速くて短い。それは日本代表がプレーするWBCやプレミア12がアメリカで中継された際、アメリカの解説者が逆に日本の投手の二段モーションに近いフォームを「Hesitate=躊躇(ちゅうちょ)」などと表現していることからも分かる。筒香の言う「間」が日本よりもメジャーの方が早ければ、打者は立ち遅れることになり、平均的に速い速球や変化球にも詰まって強い打球が打てなくなってしまう。

 その「間」の違いに適応するまで、筒香が去年の約3か月と今年の4か月近くを費やしたことを「長かった」と言えばそれまでだが、大事なのは今の彼がこの春よりも余裕を持って打席に入っていることだろう。

 それを肌で感じ取っていたのは、9月14日からピッツバーグに遠征したレッズの秋山翔吾外野手だった。
 
「(彼みたいに)ちゃんと自分の考えを言葉にできる選手は代表の中にも少ないんですよ。それは彼の感性だったり、努力してきたものがあったからだと思う」

 自身もメジャーリーグの適応に苦労している上に、今年は他の選手の活躍で出場機会を奪われているが、パイレーツ戦では味方選手の怪我もあって2試合連続でスタメン出場し、センターの守備位置から筒香をこう眺めていたという。

「抽象的に言うなら、『凄い懐が広いなぁ』って感じですよね。1打席目の四球の見切りとかも自信を持ってバチンと見逃しているし、彼の中では打てる球をミスショットしたってのもあるだろうけど、ヒットも出ているし、自信を持っている」

 秋山が言うように、筒香は時間の経過と共に自然に順応したわけではなく、日々の試行錯誤を経て今に至っているのではないかと思う。

 たとえば日々の打撃練習を眺めていると、バットをインサイドから出して、右ヒジを抜くようにしてパンチショットのように振ったかと思えば、その意識を持ちがらも強く振り切ったりと、どんな時も考えながら練習に取り組んでいる様子が目につく。レッズ戦で2試合連続の2安打2打点と活躍した試合後、彼はこう言っている。

「身体のコンディションを一番に考えながら、自分の技術の状態っていうのを……まぁ僕の中ではいろんな技術の幅があるんですけど、自分が想定している、思っている幅に収めるために、いろんな方法で作っているというような準備の仕方です」

 すべては理由があってのこと。レイズやドジャースでの経験を経て辿り着いたパイレーツと言う名の表現の場。長かったシーズンも残り約二週間、今日もまた、Yoshi Tsutsugoは伝統の黒と黄色のユニフォームに身を包みながら、嬉々とした表情で野球を楽しんでいる――。

文●ナガオ勝司

【著者プロフィール】
シカゴ郊外在住のフリーランスライター。'97年に渡米し、アイオワ州のマイナーリーグ球団で取材活動を始め、ロードアイランド州に転居した'01年からはメジャーリーグが主な取材現場になるも、リトルリーグや女子サッカー、F1GPやフェンシングなど多岐に渡る。'08年より全米野球記者協会会員となり、現在は米野球殿堂の投票資格を有する。日米で職歴多数。私見ツイッター@KATNGO
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