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薬物スキャンダルとウソ、そして偽善にまみれた英雄。11年MVPのブラウンが現役引退【豊浦彰太郎のベースボール一刀両断!】<SLUGGER>

豊浦彰太郞

2021.09.29

スキャンダル発覚前の7年間では211本塁打を放った一方、その後7年間では141本塁打。少なくともパワーの低下は明らかだった。(C)Getty Images

スキャンダル発覚前の7年間では211本塁打を放った一方、その後7年間では141本塁打。少なくともパワーの低下は明らかだった。(C)Getty Images

 しかし、これはブラウンが薬物を使用していないことを意味するものではなかった。ブラウンの弁護士団は検査プロセスの穴を徹底的に突いて、「途中で検体が取り替えられた可能性を完全には排除できない」と主張したのだ。その結果、「疑わしきは被告人の利益に」の原則が採用されたに過ぎなかった。

 そして、2年後の13年夏。球界を揺るがす事件が起こる。フロリダのアンチエイジング・クリニック『バイオジェネシス』から、アレックス・ロドリゲス(当時ヤンキース)をはじめとして、多くの選手が禁止薬物を入手していたと報じられたのだ。

 いわゆる「バイオジェネシス・スキャンダル」だ。その中にはブラウンの名もあった。動かぬ証拠を突きつけられたブラウンは、シーズン残り全試合(65試合)の出場停止処分が下されると、あっさりとそれを受け入れた。

 結局、前年の勝利会見は嘘っぱちだったということが誰の目にも明らかとなった。優しい紳士的な顔つきもあり、クリーンなイメージが売りだったブラウンは、一転して球界最大のヒールとなった。

 出場停止中にブルワーズのシーズンチケットホルダーに謝罪の電話をかけたが、世間はこれを「偽善的だ」と一蹴。11年の薬物検査担当者にも謝罪し夕食をともにしたが、これも「買収行為」と非難された。処分が明けた翌14年シーズンも、敵地ではどこへ行っても激しいブーイングを浴びせられた。
 
 スキャンダル発覚以降、ブラウンの成績は下降線を辿っている。これには、ふくらはぎや手首の故障によるパフォーマンスの低下、スキャンダルの発覚自体が30代に差し掛かった頃で、すでに衰えが始まる時期だったことも関係しており、すべてが「薬物をやめたから」というだけではない。だが、MVPやホームラン王だけでなく、5度のシルバースラッガー賞などの球歴のハイライトは、すべてスキャンダルが発覚する前だったこともまた事実である。

 そんなブラウンも、ミルウォーキーにおいてはスキャンダル発覚後も英雄だった。出場停止が解けた直後の14年の開幕戦では、ミルウォーキーのファンからスタンディングオベーションを浴びた。昨年までレギュラーを務め続け、通算352本塁打はブルワーズの球団記録でもある。

 だが、少なくとも全国的には、「薬物スキャンダルが明るみになってから凋落したスター」というイメージはもはや覆りようがない。これから何年経とうともブラウンが語られる際には、薬物違反とそれに伴うウソと偽善のエピソードが付いて回ることだろう。

文●豊浦彰太郎

【著者プロフィール】
北米61球場を訪れ、北京、台湾、シドニー、メキシコ、ロンドンでもメジャーを観戦。ただし、会社勤めの悲しさで球宴とポストシーズンは未経験。好きな街はデトロイト、球場はドジャー・スタジアム、選手はレジー・ジャクソン。
 

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