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プロ野球

真の狙いは“伝統的監督像”の打破?日本ハムは新庄剛志新監督に何を期待しているのか〈SLUGGER〉

出野哲也

2021.10.30

 ただ、ファイターズの真の狙いはもっと別のところにあるようにも思える。彼らは新庄を起用することで、伝統的な監督像を打ち壊そうと目論んでいるのではないか。

 日本球界における監督は、その采配の良し悪しによってチームの成績を大きく左右する存在と考えられている。三原脩、水原茂の時代から近年の野村克也まで、ずっとその認識は変わらない。だからこそ指導者経験が皆無である上、知的なイメージがあるとも言えない新庄を監督とした理由が、勝敗に重きを置かず人気取りに走ったのだと捉える見方が少なくないのだろう。

 けれども、本当に監督の采配能力はそこまで大きな影響があるのだろうか? こう言っては何だが、過去に日本シリーズを何度も制していても、采配に疑問符がつく監督は何人も思い浮かぶ。そもそも監督の仕事とは、実戦における用兵・采配に限定されるものではない。細かい作戦は配下のコーチがしっかりしていれば十分で、監督自身が特別切れ者である必要はない(その意味では、ヘッドコーチの人選はカギになりそうだが)。
 
 すでにメジャーリーグでは、そのような監督が大勢を占めている。権威を振りかざして自分のやり方を押し付けるようなタイプは、もはや受け入れられない。相手の裏をかくような戦術を編み出すより、ポジティブなムードを作り、選手の士気を高めて本来持っている能力を十二分に引き出す指揮官こそが、現代の理想的な監督像とされているのだ。

 日本でも少しずつその傾向は進んでいるが、まだ主流ではない。だが12球団の中でもとりわけメジャー志向が強く、フロント主導でチーム作りを進める日本ハムなら、そのような意図で監督を選んでも不思議はない。というより、積極的にそうした人選をするチームなのだ。

 そして新庄ほど、古典的な監督像を打破するのにうってつけの人材はいない。元メジャーリーガーであり、本人もそうしたシステムは馴染みがある。ジャイアンツ時代にプレーしたダスティ・ベイカーが、まさにこの系譜に連なる監督であって、そのベイカーは今年、アストロズを率いてワールドシリーズを戦っている。

 振り返ってみれば、11年に栗山監督が就任した際も、やはり「指導者経験のないタレント監督」(ニュース番組でキャスターをしていたため)と否定的に見る向きが少なくなかったが、就任1年目からリーグ優勝を果たして批判を封じ込めた。戦力的に見て、来年すぐ優勝争いに食い込む可能性は低いだろうが、新庄が監督として成功を収めた日には「新庄的な指揮官」が新たなトレンドになるかもしれない。

文●出野哲也

【著者プロフィール】
いでの・てつや。1970年生まれ。『スラッガー』で「ダークサイドMLB――“裏歴史の主人公たち”」を連載中。NBA専門誌『ダンクシュート』にも寄稿。著書に『プロ野球 埋もれたMVPを発掘する本』『メジャー・リーグ球団史』(いずれも言視舎)。
 

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