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MLB

【エンジェルスの失われた10年:前編】“2000年代最高の選手”の獲得が暗黒期の始まりだった<SLUGGER>

久保田市郎(SLUGGER編集長)

2022.01.03

 しかし、プーホルスはエンジェルスで一度も「超人的」なシーズンを送ることはなかった。もっと言えば、「偉大な」シーズンもなかった。移籍1年目こそOPS.906をマークしたが、それでも自己ワースト。2年目を最後に.800を上回ることすらなく、10年契約の半分も経たないうちに不良債権化が確定した。

 プーホルスとの契約から1年後、エンジェルスはまたも超大物FA選手を獲得して球界を驚かせる。10年にMVPに輝いたレンジャーズの主砲ジョシュ・ハミルトンと5年1億2500万ドルで契約したのだ。ドラッグ中毒を克服してMVPにまで上り詰めたハミルトンのスターバリューは莫大だったが、結果としてはプーホルスに勝るとも劣らない大失敗に終わった。

 契約1年目こそ151試合に出場したものの、打率.250、21本塁打と期待外れの成績。2年目は古傷のヒザの故障に悩まされて長期欠場すると、その年のオフ、断ったはずのドラッグに再び手を出していたことが発覚。球団は残り3年、約8000万ドルのサラリーの大半を負担してまでレンジャーズへ厄介払いした。

 プーホルスとハミルトン獲得に費やした金額は総額3億7900万ドル。これに対し、2人がエンジェルスで残したWARは15.4にすぎず、1WAR当たりの金額は何と2400万ドル以上に達する。
 
 2つの大型不良債権契約は、11年にメジャーデビューを果たしたトラウトの超人的な活躍をかき消してしまった。14年、チームはリーグ最高勝率を記録して地区優勝を果たすが、地区シリーズで格下のロイヤルズに0勝3敗で敗退。この年を最後にエンジェルスはプレーオフから遠ざかり、16年からは5年連続負け越し。18年の大谷加入も、少なくともチームの成功にはつながっていない。

 プーホルスとハミルトンの“負の影響”はMLBレベルにとどまらない。2人を獲得した代償として、12、13年はドラフト1位指名権を喪失。その影響もあり、ファーム組織は一気に弱体化してしまった。そのことも、今日に至るまで有形無形のダメージを与えている。 

 エンジェルスはその後も懲りずに大物打者の補強を繰り返した。17年オフには、その年の終盤にトレードで獲得したジャスティン・アップトンと5年1億600万ドルで再契約。契約1年目こそ及第点の活躍だったアップトンだが、その後3年間のWARはいずれもマイナスで、プーホルスやハミルトンと同じく不良債権化した。19年オフには、三塁手のアンソニー・レンドーンと7年2億4500万ドルで契約。こちらはまだ結論を出すには早いものの2年目の今季は故障で精彩を欠き、早くも暗雲が立ち込めている。

 補強そのものが悪いわけではない。だが、エンジェルスの場合、あまりにも安直で長期的な視野に欠けた補強が何度も繰り返された。結果、本当にてこ入れが必要なエリア、すなわち投手陣の補強はおざなりにされ続けた。

※中編に続く

文●久保田市郎(SLUGGER編集部)

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