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事前調査と10%以上の差。ボンズとクレメンスの殿堂入り落選に見え隠れする記者たちの“建前”と“本音”<SLUGGER>

久保田市郎(SLUGGER編集長)

2022.01.26

 実は、2016年のアメリカ大統領選でも、似たようなことが起きた。この時は、世論調査では劣勢だったドナルド・トランプが実際の投票ではヒラリー・クリントンを制したわけだが、その理由の一つとして、有権者の「建前」と「本音」の使い分けを指摘する声があった。

 粗野で女性蔑視丸出し、人種差別的な言辞も平気で撒き散らすトランプを表立って支持するのは、例え匿名の電話世論調査でも気が引ける。一方で、いかにもエリート然としてお高く止まっているヒラリーは、理屈の上では正しい選択でも、心情的に納得できない。そんな有権者の思いが、世論調査と実際の投票との差に現れたのではないか、というのだ。

 ボンズとクレメンスに関しても、実は似たような部分があるのではないか。

 最初の3年は35%前後にとどまっていた2人の得票率は、16~17年の2年間で20%近く上昇したが、その後は明らかに伸びが鈍っていた。言い換えれば、「正論」で意見を変えられた記者の数はそこが限界だった、ということだ。
 理由はともあれ(ボンズとクレメンスが現役時代、ともに傲岸不遜な性格だったことも影響しているのかもしれない)、心情的に2人の殿堂入りを許したくないと考えた記者が根強くいた。そしてその中には、SNSなどでは2人に投票することを明言しながら、実際の投票用紙ではチェックを入れなかった者も一定数いた、ということだ(実際、オティーズの得票率も事前調査よりは低いが、ボンズやクレメンスより明らかに誤差は少ない)。

 かくして、史上最も偉大なプレーヤーの一人に数えられながら、ステロイド時代の象徴でもあるボンズとクレメンスは、少なくとも記者たちからは「殿堂入りに値しない」との審判を突きつけられた。ただ、今後も時代委員会による選出で殿堂入りする可能性は残されている。今から20年後、2人への評価は変わっているだろうか。

文●久保田市郎(SLUGGER編集長)
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