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高校野球

バックスクリーンを狙え――名門・浦和学院が見せた“様変わりした野球”「失敗してもいいから振り切る意識を持とう」

氏原英明

2022.03.19

父親から名門の指揮官を受け継いだ森大監督。センバツの開幕戦で見せたチームは、彼の新たなエッセンスが十分に組み込まれていた。写真:滝川敏之

父親から名門の指揮官を受け継いだ森大監督。センバツの開幕戦で見せたチームは、彼の新たなエッセンスが十分に組み込まれていた。写真:滝川敏之

 高校野球らしいチームは往々にしてフライを打ち上げると、監督からの叱責が飛び、それを恐れてつなぐバッティングに終始しがちだ。しかし、新生・浦和学院はそのことが許容されている。小さいことのようで、これは大きい。

 森監督は言う。

「昨年の夏は2回戦で日大山形に敗れました。その戦いのなかで、相手の日大山形打線は振り切ってきた。それが結果的に、ヒットに繋がっていった。新チームになってから選手たちには、当てに行かず振り切っていこうと話しました。打ち取られても、失敗してもいいから振り切る意識を持とう、と。バックスクリーンを狙えと選手には言っています。そのなかで勝負どころで打ってくれたので、やってきたことの成果が出たのかなと思います」

 5回裏にも1点を加えた浦和学院はこの後、宮城が反撃の隙を与えることなく完封。終わってみれば、頼りになる背番号1が9回2安打13奪三振の圧巻のピッチングで、守備も無失策で援護しての会心の勝利だった。

 長く監督を務めてきたチームはその伝統の継承が容易ではない。

 浦和学院のように、前監督が30年もの歴史を積み重ねてきたとなると、チームの転換にはさまざまな紆余曲折がある。結果的にうまく行かなかったケースも少なくない。

 伝統を変えて新しくしようとして失敗する。チャレンジすることは悪いことではないのだが、チーム作りとは一筋縄では行かないものだ。

「新たな浦学を見せていくというなかで、この冬に取り組んできたことはできたのかなと思います。エースの宮城、遊撃手の金田、1番の八谷晟歩ら旧チームから試合に出ていた選手が落ち着いてやってくれたので、それに他の選手が呼応してくれてやってくれた。打ったのはクリーンアップですが、みんなが頑張ってくれたと思います」

 昨夏の甲子園を制した智弁和歌山は前任の高嶋仁監督が作り上げた「強打の智弁」のスタイルを受け継ぎながら、バトンを受けた元プロの中谷仁監督が自らの経験をミックスさせ新生・智弁和歌山を見せつけた。

 受け継ぐものと変えていくもの――。浦和学院が新しいスタートを切ったことは間違いない。

取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)

【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園という病』(新潮社)、『メジャーをかなえた雄星ノート』(文藝春秋社)では監修を務めた。

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