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高校野球

投手起用で決断しなかった近江と、決断した浦和学院――。今日の勝敗だけで「成否」を決着する必要はない

氏原英明

2022.03.30

代替出場から快進撃が続く近江。31日には大阪桐蔭との頂上決戦を迎える。写真:塚本凛平(THE DIGEST写真部)

代替出場から快進撃が続く近江。31日には大阪桐蔭との頂上決戦を迎える。写真:塚本凛平(THE DIGEST写真部)

 先発回避ではなく、登板回避。

 森監督曰く、大会前から決めていたことだという。そして、選手たちには、準々決勝の後、「次の試合は宮城は投げない。みんなで勝つぞ」と通達していたほどだった。

 決断の理由について森監督はこう明かす。

「準々決勝を勝った後の夕食の後のミーティングで、準決勝は宮城を使わないという話をしました。先発は浅田で行くぞということで、宮城以外のピッチャーで、この試合は勝つと選手たちには伝えました」。

 おそらく、甲子園を長く見ている人の中には森監督の采配を懐疑的に見る人も少なくはないだろう。エースを温存するべきではないという意見を持つ人もいるはずだ。

 ただ、先のコメントにあるように、コンディショニングを重視した決勝を勝ち抜くための采配は決して、勝利を放棄したわけではないし、「第二先発の育成」を主眼に置いていて浦和学院にとって必要不可欠な采配だった。

 森監督は続ける。

「ピッチャーが甲子園で投げるというのがどれだけの価値があるか、それを今日投げた浅田、芳野、最後まで頑張ってくれた金田は感じることができたんじゃないかなと思います。一方の宮城も相手の山田くんは4連投をしてきたわけですから、悔しい思いがあるんじゃないかなと思います。もう一度みんなで夏に向けて準備して、甲子園に戻ってきたいと思います」

 試合は近江が勝ち、浦和学院が負けた。

 この結果だけを見通せば、近江・多賀監督の決断が正しいと言えるかもしれない。しかし、その多賀監督にしても「このまま投げさせていいのか」という葛藤があったと心情を吐露しているほどだから、今日の勝敗だけでは、それぞれの決断の成否は問えないのであろう。

 今の高校球児たちが甲子園を終えた5年後から10年、そこに本当の答えがあるような気がしてならない。

 決断しなかった近江が勝った。しかし、多賀監督には葛藤があった。

 一方、決断した浦和学院は試合に負けたが、多くのものを得たと実感している。

 今日の勝敗だけで「成否」を決着する必要はない。

 5~10年後の彼らの姿を見て、我々大人は、この日あったこと、甲子園の在り方について改めて議論するべきなのだろう。

取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)

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