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プロ野球

メジャーはともかく日本での成功例はほぼ皆無。声高に叫ばれる「矢野監督解任論」は本当に阪神の起爆剤になり得るのか?<SLUGGER>

出野哲也

2022.04.21

 翌04年のアストロズはオールスターまで44勝44敗、首位から10.5ゲーム差の5位。だが後半戦から、ジミー・ウィリアムズに代わってフィル・ガーナーが新監督となると48勝26敗でワイルドカードを獲得。プレーオフでもリーグ優勝にあと1勝まで迫った。なおウィリアムズは、ブルージェイズの監督だった89年も12勝24敗(6位)で解任されると、後任のシト・ガストンの下では77勝49敗で地区優勝していた。後任監督が2度もずっと良い成績を収めたとあっては面目丸つぶれだろう。

 78年のヤンキースを思い浮かべるオールドファンもいるに違いない。前年の世界一チームは、7月23日まで52勝42敗ではあったが、首位のレッドソックスには10ゲーム差をつけられ3位。しかもビリー・マーティン監督がオーナーのジョージ・スタインブレナー・オーナーを「前科者」呼ばわりして(不正政治献金で有罪になった過去があったため)辞任に追い込まれた。監督交代の効果かどうかは分からないが、ボブ・レモン新監督の指揮によりヤンキースは息を吹き返して48勝20敗。レッドソックスとのワンゲーム・プレーオフを制すると、ワールドシリーズでも2連覇を果たした。

 また、この時ヤンキースにひっくり返されたレッドソックスは、88年に監督交代をきっかけに大逆転地区優勝を演じている。当初は86年にチームをリーグ優勝まで導いたジョン・マクナマラが指揮を執っていたが、前半戦は43勝42敗で首位のタイガースと9ゲーム差の4位。だが、オールスター期間中にマクナマラが解任され、代わって三塁コーチのジョー・モーガンが監督に昇格。するとシーズン再開直後にいきなり12連勝とロケットスタートを演じ、136試合目には地区首位に立ってそのまま優勝してしまった。モーガンが就任して以降の成績は46勝31敗、勝率.597で、“モーガン・マジック”と呼ばれた。
 
 メジャーの5つの例は、ガストンとモーガンを除く3人の新監督は複数の球団で采配を振った経験を持っており、かつ3人とも球団外部から招聘されたもの。シーズン中の監督交代という非常時には、経験の浅い指揮官よりベテランの方が適任なのかとも思える。ところが日本の場合、大沢も小川もその時点で監督は未経験だった。大沢は二軍監督、その他3人はコーチからの昇格で、緊急時に必要とする人材の選択が最終的な結果に影響を与えているようにも思える。

 矢野監督が閉幕まで続けられるかどうかは、もちろん今後の戦い方次第。現場の最高責任者なのだから、結果が出なければ途中でその座を追われても仕方ない。だが監督の首を挿げ替えただけで好転するものでもないことを、過去の例は示している。果たして阪神はどのような決断に至るのだろうか。(文中敬称略)

文●出野哲也

【著者プロフィール】
いでの・てつや。1970年生まれ。『スラッガー』で「ダークサイドMLB――“裏歴史の主人公たち”」を連載中。NBA専門誌『ダンクシュート』にも寄稿。著書に『プロ野球 埋もれたMVPを発掘する本』『メジャー・リーグ球団史』(いずれも言視舎)。

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