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プロ野球

「勝ち星=投手の実力」にあらず。勝利による評価の“限界”とは?【野球の“常識”を疑え!第1回】

DELTA

2022.06.06

 別の問題もある。投手の勝敗において、チームの失点はすべて投手の責任とされる。例えば0対1で試合に敗れた場合、その1失点が野手の失策によるもので生まれたとしても、記録上に「負け」がつくのは投手だ。「失点がすべて投手の責任」とされるとはこういう意味だ。

 ただ、すべて投手の責任として良いものだろうか。前述した野手の失策の例以外にも、投手には自身でコントロールできない要素が数多くある。野手陣の守備範囲が狭ければ失点は増えやすくなるし、完全に打ち取ったボテボテの当たりが安打になることもある。

 このように投手は、自チームの援護点だけでなく、自チームの失点すらも完全にコントロールすることができないのだ。

 また、よくよく考えてみれば、勝利投手の条件は極めて複雑だ。

 先発した場合5イニング以上投げなければ、リードして降板した場合はチームが追いつかれなければ、救援の場合は直後に自チームが勝ち越せば……など複雑な条件が多い。結局のところ、チームのものである勝利を、個人の記録に帰属させるためにいろんなルールを作っているに過ぎず、投手の貢献度を表す指標としてはかなり不適切なものとなっている。
 
 もしこの指標に「勝利」という名前がついていなければ、これほどの市民権、権威を得ていただろうか。

 もちろん、記録として楽しむ分には問題がない。ただ、選手の実力を評価するものとして利用するのは避けるべきだ。現代野球ではWAR(Wins Above Replacement)のように、負け試合であっても、味方の守備力が低かろうと、投手が自身のコントロールできる範囲で優れた働きを見せれば評価される論理的な指標も誕生している。ちなみに、WARで見ても、昨季のトップはもちろん山本由伸だった。

「勝利」という名前に騙されず、選手の働きを反映できている指標なのかは改めて考えてみてほしいところだ。

文●DELTA(@Deltagraphs/https://deltagraphs.co.jp/)

【著者プロフィール】
2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する『1.02 Essence of Baseball』の運営、メールマガジン『1.02 Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える デルタ・ベースボール・リポート5』(水曜社刊)が4月6日に発売
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