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高校野球

昭和と平成の甲子園を沸かせた名将が揃って登壇!ふたりが考える「令和の高校野球」とは?

2019.11.18

 そして話題はいよいよ、「これからの高校野球」へと移った。
 ふたりが揃って驚いたのは、「最近の監督には練習ではあれこれ口を出すが、いざ試合になると選手に作戦を任せる監督も多い」ことだという。学生野球である以上、選手がどんどん入れ替わる高校野球においては、選手よりも監督が主役という面も強い。実際に目まぐるしく入れ替わる選手を統率して甲子園で勝ち続けたふたりだからこそ、こういった“今時”の発想はあまりピンとこないのかもしれない。

 ただ、「選手のおかげ」を強調していた中村氏の方が、今どきの「放任主義」に否定的な論調なのは意外だった。確かにPL学園野球部は、「3年:神、2年:平民、1年:奴隷」と呼ばれるほど上下関係に厳格だったから、中村氏の中にはその伝統が根幹にあるのだろう。

“鬼監督”の高嶋氏の方が、意外と選手がノビノビやることには寛容な様子だ。実際、智弁和歌山の選手たちは甲子園でノビノビとプレーしながら勝ってきたという。単に地方大会ではミスするたびにガミガミ怒る高嶋鬼監督が、「甲子園は全国中継されるから、やたらめったらベンチ前でガミガミ怒れない」から羽を伸ばしていた、というのが真実なのかもしれないが……。
 
 だが高嶋氏は同時に、今どきの選手には、今どきに合わせた指導が必要だとも強調した。自分が指導していた時も、親の性格まで調べて選手の個性を把握していたというから、それが彼のスタイルなのかもしれない。特に今の時代は一昔前の“鉄拳制裁”は厳禁だ。高嶋氏も思わず手……ではなく、足が出たこともあり、それが原因で新聞沙汰になったことが身に染みているらしい。

「しかし指導者が厳格でなければ、選手のレベルは落ちていくのではないか?」という小野塚アナの問いには、高嶋氏は「それはない」という意見だ。「高校野球には今、プロからどんどん最先端の技術が下りてきているから、それを指導者がちゃんと選手に伝えられさえすれば、高校野球のレベルが下がることはない」という。

 高嶋氏も毎年、プロ選手がコーチをする指導者講習会に参加して技術を学んでいたといい、「選手はプロの〇〇選手がこれをやっている、と聞くと目を輝かせる。そうやって技術が伝えられる限り、高校野球のレベルが落ちるということはないと思う」と断言した。
 
 最後に、野球を取り巻く競技人口減少の問題について、ふたりは揃って「原初的体験」が大事だと述べた。たとえば、「幼稚園児をターゲットにしてはどうか」と高嶋氏は述べる。野球教室に行くと、一番盛り上がるのは幼稚園だからだそうだ。「打つ」「投げる」といったシンプルな楽しさこそが野球の魅力なのではないかと高嶋氏は考えており、中村氏もそうしたことをきちんと伝えられる指導者が必要なのだと述べた。

 1時間以上にもわたったトークショーはあっという間に終わり、かつて昭和と平成の甲子園を席巻していた名将が、「令和の野球」をどう考えているのかを非常に興味深く聞けた。時代は刻々と変わっていくが、令和の時代からこの先も日本野球を盛り上げていくためには、ふたりのような“名将”の存在が必要不可欠だと改めて感じた。

取材・文●筒居一孝(スラッガー編集部)

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