しかし、ここまでの解説に疑問を持つ読者もいるだろう。そもそも送りバントは“確実に”1点を取りにいくための戦術だ。得点期待値は「どれだけ多く点が期待できるか」に着目した数字であり、「点を取れるかどうか」に注目した場合にまた変わってくるのではないか、と。
実はこれについても分析が行われている。得点確率で見ると、無死一塁では40.6%の確率で得点が入る。ここで送りバントが成功した場合どうなるだろうか。1死二塁の確率は36.9%。成功したにもかかわらず、3.7%分も得点の確率が下がっているのだ。
ただ、先ほどの得点期待値と異なるのは、バントが適切な場面もあるということだ。例えば無死一・二塁の得点確率は59.9%、そこからバントに成功して1死二・三塁になると63.2%に上昇する。1点を奪えば勝利が確定する9回裏同点のような場面で、走者が二塁にいて平均以下のレベルの打者が打席に立った状況などでは、送りバントは有効な戦術になるだろう。
裏を返せば、そうした限られた状況でなければバントは有効な戦術とはなり得ない。初回、1番打者が出塁して2番が送りバントという作戦は明らかに不適切だ。 今季12球団で最も得点の少ない中日打線であってもそれは変わらない。米国の研究によると、1試合平均2得点しかとれないチームであれば、初回からの送りバントが有効になりうることが示唆されている。今季中日の1試合平均得点は約3点なので、ほぼ間違いなく強攻が最善手となる。
先制点を奪ったチームの勝率が高いというデータから、初回の送りバントを肯定する意見もあるかもしれない。ただこれについても、先制点がそこまで重要ではないことが分かっている。相手からリードを奪った時に勝率が高くなるのは当然で、それは一般的な同点からの勝ち越しと本質的には何も変わらない。
また、ここまで得点期待値・得点確率の変化について説明したが、これらはすべてバントが成功した前提の数字であることも強調したい。当然、送りバントは失敗するリスクもある。それらを考慮すると、1点を奪いにいく戦術としてもそれほど適切ではないように思える。
それでもなお、「バント否定論は一部のデータ好きの机上の空論であり、プロ野球の現場とは関係がない」と考える人もいるだろう。
しかし実は、プロ野球界でもバントが効率的な戦術ではないという認識が徐々にではあるが広がっているように見える。2015年に年間1390あった犠打は、2021年には1040に減少。2番に小技が上手い打者ではなく強打者タイプを置くチームも出てきた。MLBほど劇的にではないにしても、日本でも少しずつバントに対する考え方が変わってきているのかもしれない。
文●DELTA(@Deltagraphs/https://deltagraphs.co.jp/)
【著者プロフィール】
2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する『1.02 Essence of Baseball』の運営、メールマガジン『1.02 Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える デルタ・ベースボール・リポート5』(水曜社刊)が4月6日に発売。
【関連記事】「勝ち星=投手の実力」にあらず。勝利による評価の“限界”とは?【野球の“常識”を疑え!第1回】
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実はこれについても分析が行われている。得点確率で見ると、無死一塁では40.6%の確率で得点が入る。ここで送りバントが成功した場合どうなるだろうか。1死二塁の確率は36.9%。成功したにもかかわらず、3.7%分も得点の確率が下がっているのだ。
ただ、先ほどの得点期待値と異なるのは、バントが適切な場面もあるということだ。例えば無死一・二塁の得点確率は59.9%、そこからバントに成功して1死二・三塁になると63.2%に上昇する。1点を奪えば勝利が確定する9回裏同点のような場面で、走者が二塁にいて平均以下のレベルの打者が打席に立った状況などでは、送りバントは有効な戦術になるだろう。
裏を返せば、そうした限られた状況でなければバントは有効な戦術とはなり得ない。初回、1番打者が出塁して2番が送りバントという作戦は明らかに不適切だ。 今季12球団で最も得点の少ない中日打線であってもそれは変わらない。米国の研究によると、1試合平均2得点しかとれないチームであれば、初回からの送りバントが有効になりうることが示唆されている。今季中日の1試合平均得点は約3点なので、ほぼ間違いなく強攻が最善手となる。
先制点を奪ったチームの勝率が高いというデータから、初回の送りバントを肯定する意見もあるかもしれない。ただこれについても、先制点がそこまで重要ではないことが分かっている。相手からリードを奪った時に勝率が高くなるのは当然で、それは一般的な同点からの勝ち越しと本質的には何も変わらない。
また、ここまで得点期待値・得点確率の変化について説明したが、これらはすべてバントが成功した前提の数字であることも強調したい。当然、送りバントは失敗するリスクもある。それらを考慮すると、1点を奪いにいく戦術としてもそれほど適切ではないように思える。
それでもなお、「バント否定論は一部のデータ好きの机上の空論であり、プロ野球の現場とは関係がない」と考える人もいるだろう。
しかし実は、プロ野球界でもバントが効率的な戦術ではないという認識が徐々にではあるが広がっているように見える。2015年に年間1390あった犠打は、2021年には1040に減少。2番に小技が上手い打者ではなく強打者タイプを置くチームも出てきた。MLBほど劇的にではないにしても、日本でも少しずつバントに対する考え方が変わってきているのかもしれない。
文●DELTA(@Deltagraphs/https://deltagraphs.co.jp/)
【著者プロフィール】
2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する『1.02 Essence of Baseball』の運営、メールマガジン『1.02 Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える デルタ・ベースボール・リポート5』(水曜社刊)が4月6日に発売。
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