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プロ野球

追い求めるのは“究極の一球”。最強投手陣をけん引する梅野隆太郎はなぜ阪神に残ったのか?「絶対にもっと強くなる」

チャリコ遠藤

2022.09.06

若い投手も少なくない阪神にあって、梅野の経験は何よりの支えだ。(C)THE DIGEST

若い投手も少なくない阪神にあって、梅野の経験は何よりの支えだ。(C)THE DIGEST

 いま、阪神はベテランが去り、世代交代の真っただ中にある。ゆえに梅野も経験の浅い若手投手とバッテリーを組む機会が必然的に多くなった。捕手として意識しているのは「失敗の捉え方」だという。

「レギュラーを張るという意味では、失敗を成功に変えるとよく言いますけど。もちろん、失敗しないのが一番ですけど失敗を無駄にせず、2倍、3倍の成功に変えられるように、というのは常に意識している」

 シーズンは長い。同じチーム、そして選手と幾度となく相まみえる。1日で考えても第1打席でヒットを打たれようと2打席目、3打席目、勝敗の分岐点となるような場面で封じられれば、「失敗」が何倍もの“果実”となってバッテリーに返ってくる。無論、逆もしかりだ。

「(打者にとって)しつこい配球だったり、いろんな駆け引きをしてる。これは誰にも分からないこと」

 1年目から1軍での先発マスクを重ねてきた梅野だけに、自然と備わったマインドだった。だからこそ、若手投手と作り上げたいのは“究極の1球”だ。31歳は語気を強める。

「『これ打たれたらどうしよう』じゃなく『このボールを打たれたら仕方ない』。これがバッテリーでの最上級だと思うので」
 
 すでに今季50試合の登板を果たすなどセットアッパーとして大ブレークしている湯浅京己は、そんな正妻の考えに「自分の場合は(武器は)まっすぐとフォーク。何回か首を振ってスライダーも投げていますけど、まっすぐとフォークで打たれたら、決めていく以上は自分の中で後悔はないですね」と呼応する。

 リーグトップのホールド数、防御率1点台と春から無双し続ける右腕の数少ない“苦投”が、7月1日の中日ドラゴンズ戦。同点で迎えた8回2死二塁でアリエル・マルティネスに初球に投じた高めの146キロの直球を捉えられ、レフトスタンドへ決勝2ランを被弾した。

 悔しい黒星。それでも湯浅は「マルティネスに打たれたのも、インハイ(内角高め)にいくと決めて打たれたやつで後悔もない。選択して打たれたからって後悔はしたくないので」ときっぱりと言った。

“真っ直ぐを打たれたら仕方ない”――。翌日の試合、3点優勢の8回に再びマルティネスと対峙した湯浅はフルカウントから空振り三振に斬った。球種はもちろん、直球だ。

「フォークも梅野さんだったら絶対に止めてくれると思って信頼して投げられています。ベース前で多少ワンバウンドでも止めてくれるっていうのは思っていて。それは凄くでかいと思うし、気持ちに余裕を持って投げられていますね」

 昨年まで1軍でわずか3試合登板だった23歳の躍進には、強固な信頼関係で結ばれた女房役の存在があった。

 福岡大から13年に入団して1年目からランディ・メッセンジャー、能見篤史、藤川球児と経験も実績もはるかに上を行く名投手たちとコンビを組み、無形の財産を手にしてきた。だからこそ、投手陣には想い入れがある。

「1年やってケガをしてという投手も見てきた。2年、3年と続けて1軍で活躍することがどれだけ難しいかは身に染みて感じているので。1年やっての引き出しを増やして欲しい。(勝ちパターンで投げる)湯浅も浜地も良いところで投げているからこそ、もっと上を目指して欲しいし、そのサポートをできれば」

 その背中とリーダーシップで若手を高みへ導く。「捕手・梅野」のフェーズは次の段階に入った。

取材・文●チャリコ遠藤

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