野手に関しても柔軟に対応した。
第1戦と第3戦は、1番にはレギュラーシーズンでも主に務めていた福田周平を起用。だが、第4~5戦では佐野皓大、6~7戦には太田椋を抜擢。太田は第7戦で先頭打者本塁打を放つなどの活躍を見せた。
シーズンとは異なる起用をされた彼らが口にしたのは、「自分の力を出し切るだけ」という思いだった。そこには投手と同じく、シーズン中から出場機会をもらってきたから、いつも通りに自分の力を発揮することがチームの力になる。そう信じられたからであろう。
太田はこう語っている。
「1番起用にはちょっとびっくりしましたけど。やってやるぞっていう気持ちの方が強かった。先頭バッターなので自分がしっかりとしたスウィングをして『よし行けるぞ』という雰囲気を作りたかった。自分のスウィングができてよかったです」
中嶋監督が選手を信じて起用してきたから、シーズンのクライマックスでの短期決戦で、たくさんの起用の引き出しができたというわけだ。
長いシーズンの中で、活躍する機会を与え、その中でしっかりと精査していったから全員が戦力となり、チームのスローガンである「全員で勝つ」という野球にたどり着けたのである。
中嶋監督は継投の難しさを語りつつ、こんな思いを口にした。
「我慢するところは我慢して『この日は育てよう』と思う時ももちろんあります。この我慢がいつか生きるだろうというのもあれば、ここで交代させてあげなきゃいけないという時もある。本当に勝ちに繋がっているのかどうかって結果論じゃないですか。
今、彼らに起用する場所があるのは抑えたからであって、彼らの実力です。もちろん抜擢はしますけど、何かをつかむのは選手次第ですから。打たれる時もありますけど、バッターの力が上だったというときもあるので、シリーズに選手を連れてきたのは誰なのかって僕なわけですから、取り返す場所さえちゃんと考えてあげればいいのだと思います」
選手一人ひとりの力を信じ、「戦力」だと見つめてきたからこそ「全員で勝つ」チームコンセプトは果たされた。
思い返すと、今年夏の甲子園でも、投手のマネジメントを成功させた仙台育英が東北勢初の優勝を成し遂げた。戦力一人に依存するのではなく、チーム全体で大会を乗り切り複数投手で戦った見事な初載冠だった。
野球のトレンドは確実に変わってきている。
信念を貫き26年ぶりの日本一に輝いた。
今の時代にふさわしいチャンピオンの誕生である。
文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)
【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園は通過点です』(新潮社)、『baseballアスリートたちの限界突破』(青志社)がある。ライターの傍ら、音声アプリ「Voicy」のパーソナリティーを務め、YouTubeチャンネルも開設している。
第1戦と第3戦は、1番にはレギュラーシーズンでも主に務めていた福田周平を起用。だが、第4~5戦では佐野皓大、6~7戦には太田椋を抜擢。太田は第7戦で先頭打者本塁打を放つなどの活躍を見せた。
シーズンとは異なる起用をされた彼らが口にしたのは、「自分の力を出し切るだけ」という思いだった。そこには投手と同じく、シーズン中から出場機会をもらってきたから、いつも通りに自分の力を発揮することがチームの力になる。そう信じられたからであろう。
太田はこう語っている。
「1番起用にはちょっとびっくりしましたけど。やってやるぞっていう気持ちの方が強かった。先頭バッターなので自分がしっかりとしたスウィングをして『よし行けるぞ』という雰囲気を作りたかった。自分のスウィングができてよかったです」
中嶋監督が選手を信じて起用してきたから、シーズンのクライマックスでの短期決戦で、たくさんの起用の引き出しができたというわけだ。
長いシーズンの中で、活躍する機会を与え、その中でしっかりと精査していったから全員が戦力となり、チームのスローガンである「全員で勝つ」という野球にたどり着けたのである。
中嶋監督は継投の難しさを語りつつ、こんな思いを口にした。
「我慢するところは我慢して『この日は育てよう』と思う時ももちろんあります。この我慢がいつか生きるだろうというのもあれば、ここで交代させてあげなきゃいけないという時もある。本当に勝ちに繋がっているのかどうかって結果論じゃないですか。
今、彼らに起用する場所があるのは抑えたからであって、彼らの実力です。もちろん抜擢はしますけど、何かをつかむのは選手次第ですから。打たれる時もありますけど、バッターの力が上だったというときもあるので、シリーズに選手を連れてきたのは誰なのかって僕なわけですから、取り返す場所さえちゃんと考えてあげればいいのだと思います」
選手一人ひとりの力を信じ、「戦力」だと見つめてきたからこそ「全員で勝つ」チームコンセプトは果たされた。
思い返すと、今年夏の甲子園でも、投手のマネジメントを成功させた仙台育英が東北勢初の優勝を成し遂げた。戦力一人に依存するのではなく、チーム全体で大会を乗り切り複数投手で戦った見事な初載冠だった。
野球のトレンドは確実に変わってきている。
信念を貫き26年ぶりの日本一に輝いた。
今の時代にふさわしいチャンピオンの誕生である。
文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)
【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園は通過点です』(新潮社)、『baseballアスリートたちの限界突破』(青志社)がある。ライターの傍ら、音声アプリ「Voicy」のパーソナリティーを務め、YouTubeチャンネルも開設している。