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MLB

「コロナ禍で経営不振」「ベースボールは儲からない」――大型契約乱発で露見したオーナー側の「嘘」<SLUGGER>

出野哲也

2022.12.22

 ところが、日本ではなぜか労使紛争の原因は「十分な給料をもらっているにもかかわらず、選手会の要求が高すぎるから」だとの声が少なからず聞かれた。同じように、今回のジャッジらの契約に関しても「これでは経営が成り立たなくなるし、絶対に不良債権化する。契約期間に制限を設けるべきだ」などと、やたらに経営側の肩を持つ人たちがいる。

 MLB球団の経営状況がよく分かっていないから、このような考えに至っているのだとしたら、そうした事情を伝えきれていないメディアにも原因はあるかもしれない。ただ、どうもそれだけでなく「たかがスポーツ選手が何百億円もの高収入を手にする」ことへの反感や、選手会とオーナーの争いを「従業員が経営陣に楯突いている」と捉えるような、実態とはかけ離れた思い込みが根底にあるように見受けられる。スコット・ボラスをいまだに「悪徳代理人」「吸血鬼」などと形容する人々にも同じことが言えそうだ。
 
 大型契約が次々に成立するのは、需要と供給の原則、市場原理に基づくもの。選手たちの要求を経営側が一方的に飲まされているわけではない。

 不良債権化の懸念は分からないでもないし、実際にそうなる可能性が高そうな契約も散見される。けれども、GMたちはその点を十分承知で条件を提示しているのだし、そうしなければ他球団にさらわれるだけだ。そして、何よりもそれが可能な資金は存在する。

 そもそも、球界が儲かっているのは端的に言えば選手たちの活躍にファンが熱狂し、それが金を生んでいるからだ。だとしたら、オーナーだけがその果実を独り占めにするのではなく、ファンを喜ばせている当事者たるジャッジや大谷ら選手たちが正当な見返りを得るのは当然だろう。

文●出野哲也

【著者プロフィール】
いでの・てつや。1970年生まれ。『スラッガー』で「ダークサイドMLB――“裏歴史の主人公たち”」を連載中。NBA専門誌『ダンクシュート』にも寄稿。著書に『メジャー・リーグ球団史』『プロ野球ドラフト総検証1965-』(いずれも言視舎)。

 
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