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プロ野球

「若い選手たちは思い切ってプレーしてもらえたら」――西武・松井稼頭央新監督の育てながら勝つ野球の船出<SLUGGER>

氏原英明

2023.04.04

 9回表は、第1戦目にセーブ失敗したルーキーの青山美夏人を再び起用。走者を出す苦しいピッチングだったが、なんとか凌ぎ切り、シーズン初勝利を挙げたのだった。

 タイムリーを打った鈴木は高卒7年目。ここ数年はレギュラーを争いながらも定着できなかった選手だっただけに、結果を残せたのは非常に意味のあることだった。

「追い込まれた中でも、自分らしく思い切っていけたのがよかった。去年のシーズンにある程度できるきっかけは掴んでいたので焦りはなかったですけど、自分がなかなかレギュラーに固定できなかったから、ドラフト1位で(同じ外野手の)蛭間(拓哉)を指名したんだと思う。その悔しさは持っていました。(8回のチャンスで)代打を出されなかったので、思い切っていこうと思いました」

 鈴木は自信と覚悟を口にしつつ、殊勲の一打をこう振り返った。

 一軍で試合に出始めたのがコロナ禍の2020年頃からだったから、大歓声の中でのプレーはあまり多くなかった。声援を強く感じながらも力まず打てたことは、非常に大きなことだった。

 松井監督は言う。
 
「チームには山川もいますし、ベテランの中村、栗山もいるので、若い選手たちは安心して思い切ってプレーしてもらえたらと思う。鈴木はしっかりと準備してくれていた。青山は1戦目と同じシチュエーションが来たら、またやり返してもらいたいと思っていた。抑えることができて自信につながったと思います」

 思い返せば、前任の辻発彦監督も就任1年目に、粘り強く若手の成長を待ちながらチームを作っていった。それが今の主力である外崎修汰であり、山川であり、源田壮亮だった。指揮官が我慢強さを持つことで、若手の芽はどんどん出てくる。

 たったの1勝だが、ベテランたちに頼り切ったものではない。それが、西武の新たな船出には大きな意味がある。

「今日は今日で喜びたいと思います。ただ、これから遠征に出ますし、シーズンは長いです。いいことも悪いこともあると思いますけど、前向きにやっていきたいと思います」。

 勝ちながら選手を育てていく――。楽しみな1年になる予感のある、松井監督の初白星だった。

取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)

【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園は通過点です』(新潮社)、『baseballアスリートたちの限界突破』(青志社)がある。ライターの傍ら、音声アプリ「Voicy」のパーソナリティーを務め、YouTubeチャンネルも開設している。
 

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