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高校野球

高校野球らしからぬ「ホームランを狙っていい」の指示が的中。浜松開誠館・佐野心監督の「責任ある自由」を重んじる指導が作り上げた強力打線【氏原英明が見た甲子園:5日目】<SLUGGER>

氏原英明

2023.08.11

 また、廣崎のプレースタイルも従来の2番打者像とはかけ離れている。初球から甘い球を積極的に狙い、この日は3安打と相手チームの脅威になった。

「自分はもともと1番だったという気持ちもあって、打っていこうと考えています。(うちの)1~5番はフルスウィングして長打も打てるようにと思ってやっていて、結果が出ていると思います」

 彼らの強打は、昨秋から取り組んでいるフィジカルトレーニングの成果だ。

 それは指揮官自身の意識改革でもあるという。

 元プロ野球選手でもある佐野監督は、技術指導には自信があった。しかし、そこばかりを気にしていた時は結果につながらなかった。このため、「僕自身の野球観を変えるつもりで」と、それまでは苦手だったフィジカルに特化したチーム作りに着手したのだ。
 
「野球をやっている選手は甲子園に行きたいのに、地区大会で敗戦を繰り返した。その中で、今までの自分の考え方では、子供たちがしてほしいことは達成できないんじゃないか、阻止しているのが自分じゃないか、って自問自答があって、思い切って取り組みました。自分の技術には自信があったんですけど、そこは全面に出さずに、どちらかというと不得意なジャンルをメインにした」

 ただフルスウィングを許容しただけではなく、勝ちにつながる取り組みを模索する中でそれを見出した。その結果、県大会では1本塁打のみながら、チーム打率.335をマークする強力打線を作り出したのだった。

「青空があって、緑の芝があって、観客がいて、旗が靡いて……というのをスローモーションのように眺められる。校歌を歌っている時はそういう時間じゃないですか。やっぱり幸せだなって思いますよね」

 佐野監督が勝利の感慨にふけっている一方、新妻は今大会の目標を力強くい言った。

「今大会は優勝を目指して自分たちはやっている。次からもずっと手強い相手との対戦が続いていくと思う。そこを何とか勝ち切れるように準備していきたいと思います」

 初出場初勝利の新鋭校・浜松開誠館。一気に旋風を巻き起こしそうな予感が漂う。

取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)

【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『SLUGGER』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園は通過点です』(新潮社)、『baseballアスリートたちの限界突破』(青志社)がある。ライターの傍ら、音声アプリ「Voicy」のパーソナリティーを務め、YouTubeチャンネルも開設している。

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