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高校野球

高校野球では珍しい「名参謀上がりの監督」。伝統を引き継ぐ日大三・三木監督が待望の甲子園1勝【氏原英明が見た甲子園:4日目】<SLUGGER>

氏原英明

2023.08.10

戦況を見守る三木監督。どこかぎこちないような、それでいて何年もやっているような、不思議な風格がある。写真:産経新聞社

戦況を見守る三木監督。どこかぎこちないような、それでいて何年もやっているような、不思議な風格がある。写真:産経新聞社

 前監督のことを「おぐら」と、日大三の三木有造監督は何度もいった。

 2年連続出場の同校は、3対0で社を下した。エースの安田虎次郎が相手打線を2安打に封じた危なげない勝利だった。

 その試合後のインタビューでのことだ。

 今年4月から日大三を指揮する三木監督は、前任の名将・小倉全由のことをただ呼び捨てにしたわけではない。社外の人間と話す時、自社社員のことを呼び捨てにするのは社会では当たり前のこと。監督就任以前も、部長として20年以上も小倉監督を長く支えてきたからこその「おぐら」呼びなのだ。 

「部長グセが抜けないことですか。何か揃っていないものがあると気になってしまいますね。どうしても、目線がそっちに向いてしまう時はありますね。試合に集中しなければと思っています」

 穏やかな語り口。「新米監督」と呼ぶのは聞こえが悪い。この26年間、小倉前監督の右腕を務め、指導者としての経験をしっかり積んできた。およそ新人とは呼べないベテランなのだ。

 三木のように部長から監督に昇格するケースは、高校野球ではそう珍しいことではない。ただ、他の例と異なるのは監督になるまでの期間だ。数年後に監督になることを約束されたケースがほとんどで、だから今のうちに部長として監督の側で勉強するというのが通例だ。

 しかし、三木は部長やコーチを26年も務めた。
 
 個人的な意見だが、こういうタイプは逆に監督になりにくい印象がある。なぜなら、“名参謀”が板についてしまっているからだ。

 甲子園の強豪校のいくつかには、かつての三木のような”名参謀”が存在する。

 もっとも有名なのが、横浜の小倉清一郎元部長だ。名将・渡辺元智監督を支え、選手勧誘から投手の育成までこなし、戦術面においても貢献度が高かった。

 現役では、2度の春夏連覇を果たした大阪桐蔭の有友茂史部長も”名参謀”の一人。「有友先生あっての僕です」と西谷浩一監督が言っているほどその存在は大きい。

 また、この夏の甲子園出場校では、聖光学院の横山博英部長も長く監督の斎藤智也を支えている。

 その斎藤監督が、かつてこんな話をしていた

「県立校などを見ていると、監督と部長が一枚岩になっていない。野球部部長も指導者なので、生徒に自分の存在感を示したい。しかし、それを発揮する場がないと不満はたまりますよね。それで『あの野球じゃ勝てないよ』と監督のグチをいって、現場が崩壊しているチームが往々にしてある。うちは指導力のある横山にBチームの指導をしてもらっている。指導者を独立させることで、みんなが生きるのがうちのチームだ」

 そうした貴重な部長の存在はチームにとって大きい一方、本人はその地位を離れられないという現実もある。小倉はもちろん、有友や横山ほどの指導力があれば、どの学校でも監督になることができるはずだ。しかし、そんなことは決して許されない。現場にとってなくてはならない存在になってしまうからだ。

 だから、彼らは離れることも、立場が逆転することもない。有友は西谷を、横山は斎藤をいつまでも支え続ける。

 ところが、三木は小倉の定年退職により、今年4月から監督へ昇格した。
 
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