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ベースボールとファミリーをつなぐ存在へ――田澤純一が持ち込んだハイチュウはいかにアメリカで市民権を得たか<SLUGGER>

ナガオ勝司

2023.10.25

河辺氏は今年9月、リグリー・フィールドで始球式を行った。写真提供:米国森永製菓

河辺氏は今年9月、リグリー・フィールドで始球式を行った。写真提供:米国森永製菓

「簡単に言うと、それまでアジア系スーパーだけに置かれていたハイチュウを米国の普通のスーパーマーケットやドラッグストアの『Candy Isle(キャンディー・アイル)』に置いてもらえるように、販売網の組み換えと販売政策の転換を行ったのです」

 そう言ったのは、シーズン終盤の9月、カブスの本拠地リグリー・フィールドで始球式を行った河辺輝宏・米国森永製菓株式会社代表取締役社長兼米国事業総代表だった。

 ハイチュウは日本からの輸出商品として、15年以上前から米国で販売されていたそうだが、それは西海岸のアジア系や日系のスーパーに限定されていた。米国の普通のスーパーで売られても、「外国食料品コーナー」や「アジア食料品コーナー」に置かれるのが通常で、醤油やわさび、海苔といった日本を代表する食品の隣に並べられていたという。
 
「田澤選手がメジャーリーグの現場へ持ち込んでいただいたことで、他の選手やスタッフの方々が『ハイチュウ美味しいじゃないか。もっとたくさん持って来いよ』と熱狂的に好きになっていただいた。でも、それだけではなかなか小売業者さんへの商品導入には結びつかない。そこで時間をかけながら、球団さんとのスポンサーシップを通じて、全米にハイチュウを展開していくことになったのです」

 河辺氏はレッドソックス、カブス、そしてツインズの3球団とのスポンサーシップを始めた。いずれも日本人選手とは縁のある球団に思えるが、実はそれはハイチュウのスポンサーシップとは関係ない。
 
「ボストンの南に隣接した米国最小のロードアイランド州には、全米チェーンのドラッグストア、CVS/Pharmacyの本社があり、シカゴ郊外にはWalgreen Companyの本社があります。そして、ツインズの本拠地があるミネソタ州ミネアポリスには、有名な量販ディスカウント・ストアのTargetの本社があるからです」(河辺氏)

 日本とは少し形態が違うので補足しておくと、米国におけるドラッグストアは、直訳の「薬局」ではなく、売り場面積のほとんどはお菓子や清涼飲料水、雑誌や化粧品、簡単な電化製品や玩具で占められている。処方箋の必要な「薬局」は一部分に過ぎず、量販ディスカウントストアとともに米国人の生活には欠かせぬ存在である。

 薬を買いに来たついでに、お菓子や清涼飲料水を買って帰るのは、米国ではさほど珍しいことではなく、アメリカにおけるお菓子の位置づけがよく分かる。河辺氏は小売業者を相手に地道に商談を進める中、それを再確認することになる。

「小売業者の方々を招いて商談をしている時、彼らの前に商品を並べたら、商談が終わる頃にはほとんど、残ってませんでした。日本でなら一口、試食して終わりなのに、こちらの人々は商談している間ずっと、それを食べ続けていたのです。性別も年代も違う人々がハイチュウを残さず食べるのを見て、アメリカのキャンディー文化というか、アメリカ人は幅広い世代に渡ってキャンディーが好きなんだな、と実感しました」

 シカゴやミネソタはいわゆる「中西部」に位置し、アメリカのHeartland=(心のふるさと)と呼ばれる保守的な地域である。典型的には白人の比率が圧倒的に多く、シカゴやミネアポリスといった都会はともかく、少し郊外に車を走らせれば、アフリカ系アメリカ人はもちろん、アジア人に遭遇する確率は極端に少ない。
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