先頭の中川がセンター前ヒットで出塁、犠打で二進の後、紅林を迎えたが、村上は続投。その２球目だった。紅林が真ん中に入ったフォークを一閃し、左中間スタンドに打球を運んだのだった。

　実は、試合後の岡田監督は翌日の試合について語る一方、この交代機について少し悔いている。

「村上は今日は悪かったな。コントロールが高かったからな。もう１イニング早い交代やったらなと思うよ。紅林だけやったからな」

　岡田監督の算段は紅林を抑えた後、森のところでサウスポーを投入するつもりだったのだろう。おそらくこれまで通り、島本浩也か伊藤将司を予定していたはずだ。

　しかし、これまでと違って思い切れなかったのは、オリックスのオーダーによるものだ。

　左右のリリーバーをうまく起用して阪神が勝ち越した甲子園の３試合、オリックスは阪神にとって、「ブルペン起用がしやすい」オーダーを組んでいた。
  　左打者の宗佑磨と森を並べ、その後ろに頓宮裕真とスウィッチのゴンザレス、紅林などと続いていく。つまり、左→右とうまくつなげやすかったのだ。

　ところがこの日は、宗と森の間に紅林を入れた。これが功を奏した。

「３番になってどうとかはあまり気にせずいきました。監督からも特に、何も言われていなかったです。左バッターの間……うーーん、そんな意識していないっす。３番はずっと打ちたいと思っていた打順でした」

　試合後のヒーローインタビューでの紅林のとぼけたような答えからは、おそらく本人がその起用の意図を理解していなかったことが判然としたが、結果的に３番という打順をプレッシャーを持たず、むしろ意気に感じていたことが結果につながったのだろう。四球３つに本塁打の全打席出塁。彼の打棒はこの試合の大きなポイントだった。

　また、紅林は対村上についてはきっちりとこう答えた。

「この前の試合もですけど、ウェスタンとかで対戦したことがあって、１本も打ったことがないんですよ。何か変えないとなと言うのはありました。僕は技術がないんで、すべてのボールを打とうとするのは無理なんで、追い込まれるまでは打てる球を待っているんです。ピッチャーによってそれは変えているんですけど、決めたボールじゃないと振らないとか割り切りはできている。村上投手に関してはコントロールがいい。全部追いかけてもしょうがないので、高い、甘いところを打ちにいきました」