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MLB

なぜ私は最多勝と奪三振の二冠を獲得したストライダーにサイ・ヤング賞票を投じなかったのか――実際に投票した記者の視点<SLUGGER>

ナガオ勝司

2023.11.16

 ストライダーの場合、彼がマウンドにいる間の援護点(9イニング平均)はリーグ2位の6.61で、同1位は同じくブレーブスのチャーリー・モートンの6.72だったことからも分かるように、MLB最多の947得点を叩き出した超強力打線の強力な援護があっての20勝だった。ストライダーのQS(クオリティ・スタート=6イニング以上&自責点3以下)が9人の候補者中、最少の18試合に過ぎなかったことを考えると、メジャー最多の104勝を記録したチームの「20勝投手」に、言葉ほどの価値を見い出せなかった。

 奪三振についてはどうか?

 個人的には、奪三振やそれに準ずる奪三振率やK/BB(奪三振と与四球の比率)はこれまでの2回同様、サイ・ヤング賞投票で勝利数より遥かに重要視すべき数字だと思っている。実際、ナ・リーグでは、最多奪三振のタイトルを獲得した投手が過去7年で6度もサイ・ヤング賞を獲得している。

 ただし、皮肉にも同期間のア・リーグはサイ・ヤング賞を獲得した7人中、奪三振王は2人のみで、とても気になった。なぜなら、ナ・リーグは去年からDH制度を導入しており、そこには何らかの因果関係があるのではないかと思ったからだ。

 昨年はゲリット・コール(ヤンキース)が257奪三振でタイトルを獲得しているが、サイ・ヤング賞投票では上位5位にすら入れなかった(9位)。それはおそらく、防御率がリーグ13位の3.50だったことや、同ワーストの33本塁打を浴びたことと関係している。前述の通り、昨年はナ・リーグでDH制が導入された年で、最多奪三振のコービン・バーンズ(ブルワーズ)がサイ・ヤング賞投票で上位5人に入れなかったのも、他の部門の数字が上位5人より劣っていたからだ。
 
 もっとも、奪三振が最重要視されないのは、実はDH制度に関係なく、MLBにおいては伝統的な考え方とも言える。たとえば、通算5714奪三振のMLB記録保持者であるノーラン・ライアンは1976年に両リーグ最多の327奪三振でタイトルを獲得しながら、サイ・ヤング賞投票では上位8位にも入れなかった。ライアンは最多奪三振のタイトルを通算11回も獲得しているが、サイ・ヤング賞投票でトップ5に入ったのは5回のみである。

 そういった事実から、「最優秀防御率=サイ・ヤング賞なのか?」と誤解を招くこともあるが、先発投手の完投が珍しくなり、長打偏重の打者が増加で三振数自体も右肩上がりいとなっている昨今のMLB1において、伝統的な「投手三冠」の中で今も重視できるのが防御率のみになったということだろう。

 実際、ストライダーの防御率3.86はリーグ5位どころか、10位にも入っていない(12位)。過去のサイ・ヤング受賞者で最も防御率が高かったのは01年のロジャー・クレメンス(ヤンキース)の3.51で、それすら大幅に超えている。

 昨年からナ・リーグでもDH制を導入されたという事実を前提に、以前からDH制を使用していたア・リーグの過去5年のサイ・ヤング賞候補を調べてみると、防御率3.50以上で投票上位5人に入ったのは、19年のランス・リン(当時レンジャーズ)=3.67のみで、今年のストライダーの防御率に極めて近い3.81だったエデユアルド・ロドリゲス(当時レッドソックス)は6位タイに終わっている。

 これもMLB通の人にとっては「今さら」感満載だろうけれど、防御率は野手の守備力や球場の形状などにも影響されるため、投手の総合力を推し量る指標としては不十分という見方がある。つまり、「打者が三振や四死球になることなく、打球を前に飛ばしてしまえば、本塁打以外の打球の行方=結果は運にも大きく左右される」という考え方だ。
 
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