確かにその通りなので、私を含む投票者の中には、FIP(Fielding Independent Pitching≒野手の能力に依存しない防御率)を参考にする人も多い。実際、ストライダーのFIP2.86は前出の9人の中で最も低く、「不運に見舞われた投手」と見ることもできる。
今回、私がそれを重要視しなかったのは、FIPはセイバーメトリクスの専門家から「あくまで責任範囲の結果を得点化した指標であり、能力を推定することを目的とした指標ではない」と言われていること、「被本塁打や奪三振のリーグ平均の数字は毎年、急激に変わっているのに、数式に用いられる変数が一向に変化しないのは疑問」などと指摘されているからだ。
ストライダーの場合、ERA+(防御率がリーグ平均と比べてどれだけ優れていたかを示すもので、球場の特性も考慮される)は114とバーンズや千賀を含めた9人の候補者の中でワーストの数字で、被本塁打率1.06やLOB%(走者を残塁させた率)70.3%も、同じくワーストレベルだったことが、彼のFIPの優位性をなくしてしまった。
ここまで述べたことを理解していただけると、14勝9敗の左腕スネルと、11勝13敗のウェブを1位、2位に投票した理由もお分かりいただけるのではないか。
スネルは防御率2.25だけでなく、残塁率86.7%とERA+181もリーグベスト、その他の数字も概ねトップクラスだった。マイナス材料は9人の候補者でいずれもワーストの与四球率4.95とK/BB2.36だったが、それを余りある好成績を残したと判断した。
対するウェブは9人の候補者の中で、投球回数(216.0回)、与四球率1.29、WHIP1.07、K/BB6.26で最高の成績を収めているが、防御率は3.25とスネルはもちろん千賀やスティール(3.06)にも及ばなかった。それでもスネルと遜色ない成績だと感じたが、二者択一で1位票はスネルに投じた。
3位のウィーラーと4位のギャレンについては正直、スネルとウェブ以上に甲乙付けるのが難しかった。ギャレンの防御率3.47は、ウィーラーの3.61より上ではあるが、今までに述べた各部門の数字の総合でウィーラーの方にわずかに軍配が上がると判断した。彼が最終候補3人に残らなかったことを考えると、私は少数派だったわけだ。
最後になるが、スティールを5位に入れたことについては、結果的にそれがストライダーを外す理由にもなったので、賛否両論あると思っている。だが、もしも誰かが「あなたはカブスの地元シカゴを拠点とする記者だから、忖度が働いたのではないか?」と指摘するなら、「間違いではないが、正解ではない」と答えておく。
私がスティールに投票したのは、彼の活躍がなければカブスが161試合目までプレーオフ進出を懸けて戦うことはなかった、と断言できるからだ。とりわけ、マーカス・ストローマンが8月1日に負傷者入りしてからスティールが8試合連続でQS(クオリティ・スタート)を記録し、その間チームが7勝していなければ、失速はもっと早かったと思っている。
その時点でのスティールは16勝3敗、防御率2.49とスネルに匹敵する成績を残していた。続く最後の3試合で炎上していなければ、162試合目=シーズン最終戦にプレーオフ進出を懸けて登板していたはずだし、サイ・ヤング賞投手になっていた可能性も高かったと思っている。つまり、彼は最後の3試合の炎上でチームがプレーオフ進出を逃した責任を背負うことになっただけではなく、サイ・ヤング賞の貴重な数票も失ったということだ。
サイ・ヤング賞投票では、MVPのようにペナントレースへの貢献度云々を問う声はなく、実際、私はプレーオフ争いから早々に脱落したパドレスのスネルに1位票を投じている。同時に、今年のスティールがサイ・ヤング賞投票に見合う活躍をしたと評価できるのはシカゴを拠点とする記者だからこそ、だと考えた。カブスを1年間カバーしてきたからこそ、5位でもいいから票を投じるべきだと感じたのだ。
それを「忖度」と呼ぶのなら、甘んじて受け入れる覚悟である――。
文●ナガオ勝司
【著者プロフィール】
シカゴ郊外在住のフリーランスライター。'97年に渡米し、アイオワ州のマイナーリーグ球団で取材活動を始め、ロードアイランド州に転居した'01年からはメジャーリーグが主な取材現場になるも、リトルリーグや女子サッカー、F1GPやフェンシングなど多岐に渡る。'08年より全米野球記者協会会員となり、現在は米野球殿堂の投票資格を有する。日米で職歴多数。私見ツイッター@KATNGO
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ストライダーの場合、ERA+(防御率がリーグ平均と比べてどれだけ優れていたかを示すもので、球場の特性も考慮される)は114とバーンズや千賀を含めた9人の候補者の中でワーストの数字で、被本塁打率1.06やLOB%(走者を残塁させた率)70.3%も、同じくワーストレベルだったことが、彼のFIPの優位性をなくしてしまった。
ここまで述べたことを理解していただけると、14勝9敗の左腕スネルと、11勝13敗のウェブを1位、2位に投票した理由もお分かりいただけるのではないか。
スネルは防御率2.25だけでなく、残塁率86.7%とERA+181もリーグベスト、その他の数字も概ねトップクラスだった。マイナス材料は9人の候補者でいずれもワーストの与四球率4.95とK/BB2.36だったが、それを余りある好成績を残したと判断した。
対するウェブは9人の候補者の中で、投球回数(216.0回)、与四球率1.29、WHIP1.07、K/BB6.26で最高の成績を収めているが、防御率は3.25とスネルはもちろん千賀やスティール(3.06)にも及ばなかった。それでもスネルと遜色ない成績だと感じたが、二者択一で1位票はスネルに投じた。
3位のウィーラーと4位のギャレンについては正直、スネルとウェブ以上に甲乙付けるのが難しかった。ギャレンの防御率3.47は、ウィーラーの3.61より上ではあるが、今までに述べた各部門の数字の総合でウィーラーの方にわずかに軍配が上がると判断した。彼が最終候補3人に残らなかったことを考えると、私は少数派だったわけだ。
最後になるが、スティールを5位に入れたことについては、結果的にそれがストライダーを外す理由にもなったので、賛否両論あると思っている。だが、もしも誰かが「あなたはカブスの地元シカゴを拠点とする記者だから、忖度が働いたのではないか?」と指摘するなら、「間違いではないが、正解ではない」と答えておく。
私がスティールに投票したのは、彼の活躍がなければカブスが161試合目までプレーオフ進出を懸けて戦うことはなかった、と断言できるからだ。とりわけ、マーカス・ストローマンが8月1日に負傷者入りしてからスティールが8試合連続でQS(クオリティ・スタート)を記録し、その間チームが7勝していなければ、失速はもっと早かったと思っている。
その時点でのスティールは16勝3敗、防御率2.49とスネルに匹敵する成績を残していた。続く最後の3試合で炎上していなければ、162試合目=シーズン最終戦にプレーオフ進出を懸けて登板していたはずだし、サイ・ヤング賞投手になっていた可能性も高かったと思っている。つまり、彼は最後の3試合の炎上でチームがプレーオフ進出を逃した責任を背負うことになっただけではなく、サイ・ヤング賞の貴重な数票も失ったということだ。
サイ・ヤング賞投票では、MVPのようにペナントレースへの貢献度云々を問う声はなく、実際、私はプレーオフ争いから早々に脱落したパドレスのスネルに1位票を投じている。同時に、今年のスティールがサイ・ヤング賞投票に見合う活躍をしたと評価できるのはシカゴを拠点とする記者だからこそ、だと考えた。カブスを1年間カバーしてきたからこそ、5位でもいいから票を投じるべきだと感じたのだ。
それを「忖度」と呼ぶのなら、甘んじて受け入れる覚悟である――。
文●ナガオ勝司
【著者プロフィール】
シカゴ郊外在住のフリーランスライター。'97年に渡米し、
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