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プロ野球

高校3年の秋から始まった戸郷翔征のシンデレラストーリー。洗礼を浴びた日本シリーズを経て真価が問われる2年目へ

氏原英明

2020.01.06

ソフトバンク戦で内川に浴びた一打は、戸郷にとって大きな経験になったはずだ。写真:山崎賢人(THE DIGEST写真部)

ソフトバンク戦で内川に浴びた一打は、戸郷にとって大きな経験になったはずだ。写真:山崎賢人(THE DIGEST写真部)

 ゲーム展開だけをなぞっていくと、戸郷がただ炎上しただけのようにも見えるが、実際はそうではなかった。

 まず、先頭の松田を三振に取ったのは圧巻だった。140キロ台後半のストレートを勢い良く投げたかと思うと、カット気味のスライダー、フォークで打者を翻弄する。ストレートに近い球速帯の変化球を操る、昨今の「勝てる投手」に共通したスタイルのピッチングは、彼のポテンシャルの高さを見せつけたものだった。

 思えば、高3秋の宮崎でU-18代表を相手に投げた時も、ストレートとカットボール、フォークを駆使していた。

 ところが、内川の一打が戸郷のすべてを崩した。

 フルカウントからの6球目。松田宣を三振に斬り、この打席でも空振りを奪っていたカットボールで勝負に挑んだが、これを内川が片手でレフト前へと運んだのだ。完全に泳がされながらも、バットコントロールだけでもぎ取ったヒットだった。そこから戸郷は、先述したように四球と自らのミスなどで失点を重ね、最後はデスパイネにとどめを刺された。
 
 一瞬で地獄に突き落とされた戸郷は試合後、内川の一打ですべてが狂ったと振り返った。

「内川さんの一本の印象が大きかった。(投げた瞬間は)三振が取れたと思った。あのヒットで気持ちが落ちてしまった。あそこに投げても空振りが取れないと思うようになって、その後は投げるゾーンを徐々に上げてしまいました。その結果が、最後のデスパイネ選手のヒットだと思う。切り替えることが大事だなと思いました」

 改めて振り返っても、内川の芸当は彼にしかできないものだ。だが、最高レベルのバッティング技術を体感できたことは、戸郷にとっては大きな収穫になった。

 チーム内を見渡すと、エースとして投手三冠を達成した山口俊がメジャーリーグへ活躍の場を移した。つまり、先発枠が空いた。

 戸郷は言う。

「大事な場面で出してもらったということは期待されている部分が大きいと思う。そういう期待に応えていかないと一軍に残っていけない。しっかり結果を残してやっていきたいと思う」

 シンデレラの魔法が解けた時、戸郷の本当の真価が問われる。

取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)

【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園という病』(新潮社)、『メジャーをかなえた雄星ノート』(文藝春秋社)では監修を務めた。
 

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