ただし、今永昇太は「一流のアスリート」だ。他の一流アスリートがそうであるように、彼もまた「今以上」を求め、現状維持を事実上の後退と考えているようなところがある。
たとえば、彼はいつの頃からか、打者2巡目か3巡目に興味深い球を投げるようになった。それは当初、1球ごとに球速や高低、コースだけではなく、球種まで明示される「MLB Gameday」に、「Split」と表示されていた。80マイル台前半のそれよりは明らかに球速が速く、90マイル前後にもなるので、それはやがて、「Sinker(≒2シーム・ファストボール)」と表示されるようになり、件のマーリンズ戦では「Change up」になっていた。
数週間前、その謎の球種について質問された時、今永はこう答えている。
「それは戦略上のあれなんで、まっ、すぐにバレると思いますけど。僕の口から『どの球種』ですっていうのはバレてしまうので」。
前述のように「Split」が「Sinker」、「Change up」と表示されるようになり、はぐらかすのをやめた彼は、とても明瞭に4シーム、スプリット(・チェンジアップ)、スウィープ、カーブに続く第5の球種をこんな風に説明してくれた。以下、ご本人の了解を得て書く。
「ボールの軌道としては2シームだと思いますね。僕は元々、2シームを投げる時のグリップが少し違っていて、他の人がこう握っているのに、僕の場合はこう握っていました」
そう言って彼は、狭い縫い目の間に人差し指と中指を添えたかと思えば、2本の指を開いて、その狭い縫い目の両脇を挟んだ。言わば「スプリット(・チェンジアップ)の浅いバージョン」。それを彼は「あまりうまく行かなかった」と言った。 「で、ブルペンとか、キャッチボールでは、遊びでいろいろ投げているうちに、何でかよく分からないんですけど、こうなっちゃんたんです」
そう言いながら見せてくれた彼の左手は、人差指と中指だけではなく、薬指までを狭い縫い目の上に並ばせていた。
「トミー(・ホットビー投手コーチ)とかは『スリーフィンガー・ファストボールだな』って言うんですけど、とにかくこれで投げるとあの球速で、あの軌道になるんです」
当初は秘密のような扱いだった謎の球種、「三本指の速球」。
今永はそれを「ホップ成分の少ない真っすぐ」とも表現する。彼本来の4シームは、「ホップ成分の高い真っすぐ」で、主にストライクゾーンの高めからボールになるコースに投げられるが、「ホップ成分の少ない真っすぐ=三本指の速球」は、基本的には低めにコントロールされ、最終的には空気抵抗もあって右打者の外角へと動く。
高めに行くと単に球速の遅い、キレのない速球になってしまうため「投げ損ねたら超危険な球」とも言えるが、変化やロケーションに多少のバラつきはあるものの、すでに打者のタイミングを外してゴロを打たせるなど、実戦でそれなりの効果を上げている。今の彼にとって大事なのは、それを投げ出すタイミングだけのようだ。
「それを使い出すイニングが難しい、と僕は感じている。たとえば高めの真っすぐ、今日(マーリンズ戦)は2本、ホームランを打たれましたけど、もしあれが低めの真っすぐを打たれたとしたら、『何で高めに投げなかったんだ?』となる。低めの真っすぐに切り替えるタイミングが難しい。打たれ出した後、どこで変えていくのがまだ分からない。(点差が開いて)今日も投げやすい展開ではあったのに、切り替えるタイミングがちょっと難しかった」
ところで、マーリンズ戦の試合後、日本メディアだけが尋ねた質問があった。
たとえば、彼はいつの頃からか、打者2巡目か3巡目に興味深い球を投げるようになった。それは当初、1球ごとに球速や高低、コースだけではなく、球種まで明示される「MLB Gameday」に、「Split」と表示されていた。80マイル台前半のそれよりは明らかに球速が速く、90マイル前後にもなるので、それはやがて、「Sinker(≒2シーム・ファストボール)」と表示されるようになり、件のマーリンズ戦では「Change up」になっていた。
数週間前、その謎の球種について質問された時、今永はこう答えている。
「それは戦略上のあれなんで、まっ、すぐにバレると思いますけど。僕の口から『どの球種』ですっていうのはバレてしまうので」。
前述のように「Split」が「Sinker」、「Change up」と表示されるようになり、はぐらかすのをやめた彼は、とても明瞭に4シーム、スプリット(・チェンジアップ)、スウィープ、カーブに続く第5の球種をこんな風に説明してくれた。以下、ご本人の了解を得て書く。
「ボールの軌道としては2シームだと思いますね。僕は元々、2シームを投げる時のグリップが少し違っていて、他の人がこう握っているのに、僕の場合はこう握っていました」
そう言って彼は、狭い縫い目の間に人差し指と中指を添えたかと思えば、2本の指を開いて、その狭い縫い目の両脇を挟んだ。言わば「スプリット(・チェンジアップ)の浅いバージョン」。それを彼は「あまりうまく行かなかった」と言った。 「で、ブルペンとか、キャッチボールでは、遊びでいろいろ投げているうちに、何でかよく分からないんですけど、こうなっちゃんたんです」
そう言いながら見せてくれた彼の左手は、人差指と中指だけではなく、薬指までを狭い縫い目の上に並ばせていた。
「トミー(・ホットビー投手コーチ)とかは『スリーフィンガー・ファストボールだな』って言うんですけど、とにかくこれで投げるとあの球速で、あの軌道になるんです」
当初は秘密のような扱いだった謎の球種、「三本指の速球」。
今永はそれを「ホップ成分の少ない真っすぐ」とも表現する。彼本来の4シームは、「ホップ成分の高い真っすぐ」で、主にストライクゾーンの高めからボールになるコースに投げられるが、「ホップ成分の少ない真っすぐ=三本指の速球」は、基本的には低めにコントロールされ、最終的には空気抵抗もあって右打者の外角へと動く。
高めに行くと単に球速の遅い、キレのない速球になってしまうため「投げ損ねたら超危険な球」とも言えるが、変化やロケーションに多少のバラつきはあるものの、すでに打者のタイミングを外してゴロを打たせるなど、実戦でそれなりの効果を上げている。今の彼にとって大事なのは、それを投げ出すタイミングだけのようだ。
「それを使い出すイニングが難しい、と僕は感じている。たとえば高めの真っすぐ、今日(マーリンズ戦)は2本、ホームランを打たれましたけど、もしあれが低めの真っすぐを打たれたとしたら、『何で高めに投げなかったんだ?』となる。低めの真っすぐに切り替えるタイミングが難しい。打たれ出した後、どこで変えていくのがまだ分からない。(点差が開いて)今日も投げやすい展開ではあったのに、切り替えるタイミングがちょっと難しかった」
ところで、マーリンズ戦の試合後、日本メディアだけが尋ねた質問があった。
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