専門5誌オリジナル情報満載のスポーツ総合サイト

  • サッカーダイジェスト
  • WORLD SOCCER DIGEST
  • スマッシュ
  • DUNK SHOT
  • Slugger
MLB

サイン盗みにタンキング…“球界で最も嫌われている球団”アストロズがもたらした「功罪」

出野哲也

2020.01.30

17年アストロズに世界一をもたらしたルーノーGMだが、サイン盗み問題の責任を問われて解任された。(C)Getty Images

17年アストロズに世界一をもたらしたルーノーGMだが、サイン盗み問題の責任を問われて解任された。(C)Getty Images

 そして悪評を決定的にしたのが、17年の世界一メンバーであるマイク・ファイアーズ(現アスレティックス)が証言したサイン盗み騒動だ。本拠地球場ミニッツメイド・パークのセンター後方からカメラで相手バッテリーのサインを撮影・解析し、ダグアウト出口にあるゴミ箱を叩いて打者に球種を教えていたというもの。当事者の告発以上に確かなものはなく、当時のベンチコーチだったアレックス・コーラが監督を務めるレッドソックスにまで疑惑は波及している。

 サイン盗みの精度や効果のほどは明白ではない。17年のシリーズ制覇が、すべてサイン盗みの成果というのも安直だ。確かに同年のポストシーズンはホーム8勝1敗、アウェー3勝6敗と本拠で圧倒的に強かったが、ダルビッシュ有(ドジャース)を打ち込んだワールドシリーズ第7戦は敵地だった。19年のシリーズに至ってはロードで3勝、ホームで4戦全敗している。

 サイン盗みは古くから行われていて、現在やっているのもアストロズだけではないだろう。だが、「他人もしているのだから自分もしていい」という理屈は成り立たない。薬物疑惑にまみれたバリー・ボンズの本塁打記録が忌み嫌われているように、道義に反する行為によって栄光を手にしても違和感は残る。

 そもそも、アストロズがメジャー最強チームとなった経緯も反感を招くものだった。タンキングと呼ばれ、近年のプロスポーツで問題視されている再建法を採っていたからである。
 
 タンキングとは、年俸の高額な主力選手を放出するなどして故意に戦力を落として成績を下げ、より上位のドラフト指名権を得ようとするもの。アストロズは10年途中、ロイ・オズワルトとランス・バークマンの投打の主力を放出し、再建に着手した。11年に球団史上初めて100敗以上となる106敗を喫すると、12年は107敗、13年も111敗と負け続けた。その見返りが12~14年に手にした3年連続のドラフト全体1位指名権で、13年のマーク・アッペルは期待外れ、14年のエイケンは前述の通り入団拒否となったが、12年のカルロス・コレア、15年全体2位(ただし、これはエイケンの交渉権喪失に伴う補償)のアレックス・ブレグマンはいずれもスター選手に成長した。

 タンキングは、できるだけ早く、しかも効果的に再建を成し遂げる上では確かに効果的ではある。だが、故意にチーム成績を落とすという半ば敗退行為とも呼べる手段は、プロスポーツ球団として、これまた“道義的”に好ましくはない。

 また、アストロズやカブスがタンキングを経て世界一になったことから他球団も追随し、上位を目指すチームと再建中のチームの戦力差が拡大した。これがMLB全体の観客動員減少の一因であるとも言われる。アストロズに対する批判は感情的なものも含まれてはいるが、彼らが強くなってきた過程の端々で見え隠れする「インテリの傲慢さ」が、反感を増大させてきたのは否めない。
 

RECOMMENDオススメ情報

MAGAZINE雑誌最新号