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MLB

【玉木正之のベースボール今昔物語:追悼・長嶋茂雄特別寄稿】日本野球史上最も素晴らしいベースボール・プレーヤーに聞き逃したこと<SLUGGER>

玉木正之

2025.06.05

 長嶋監督は「……イヤァ、それは、いろいろとそういうご意見も耳にしますが……」などと口を濁された。だが私はさらに、93年に長嶋さんが監督に復帰されて以来の7年間でリーグ優勝は2度されてますが日本一は94年の一度のみ、だからといってこれほど他球団から有力選手をかき集めるやり方は、新聞社が親会社だから世間の反対の声を抑えることもできるわけで……とたたみかけると、突然驚くほどの大声で怒鳴られた。

「今は、そんなことを言う時じゃねえだろ!」

 その大声と般若のような怖ろしい形相に驚いて、後ろに立っていたカメラマンが、思わずカメラを落としそうになったほどだった。

 私は、ジャーナリストならこんなこともあるだろう……という程度に思い、平静を装って、それなら日本シリーズに話を戻しますが……と言うと、

「ね、ね、今は野球の、日本シリーズの話をしましょうよ、ね」

 と、長嶋監督はいつものにこやかな優しい顔に戻られた。そして、日本シリーズのキーポイントになるのは何戦目か、短期決戦のラッキーボーイがでるキッカケは……といった話題に快く応じてくださったのだった。

 その後も、アテネ五輪の日本代表監督として予選を闘ってられた時など、試合後の合同記者会見などで何度か挙手して質問すると、やはり快く応じてくださった。が、ついに、このことについては改めて質問する機会に恵まれることがないまま今日を迎えてしまったのだった。
 
 長嶋茂雄さんの野球選手としての素晴らしさ、その明るい性格で誰もを魅了し、惹き込んでしまう人間としての素晴らしさ、見事さなどは、あえてここでは書かなかった。乱暴な言い方になるが、それは誰もが知っていることとも言えるだろう。

 だからこそ私は長嶋茂雄さんに、質問してみたかった。

 マスメディアが親会社、あるいは株主になることは、メジャーリーグでは許されていない。一方、マスメディアが親会社のジャイアンツが、日本のプロ野球界を牽引していていいのでしょうか? 読売新聞がこれまで日本のプロ野球界に多大な貢献を果たしてきたことは事実ですが、今後は違う組織の形の方が良いのではないですか?

 日本球界のなかで最も早くメジャーリーグに目を向けてこられた長嶋さんなら、そのあたりのところを、どうお考えだったのでしょうか……?

 といったことを、是非とも長嶋さんに聞きたかったのだが……そのあたりのところは“ミスタープロ野球”亡きあと、我々が考えなければならないことなのだろうと思う。長嶋さん! 本当にいろいろありがとうございました。

文●玉木正之

【著者プロフィール】 たまき・まさゆき。1952年生まれ。東京大学教養学部中退。在学中から東京新聞、雑誌『GORO』『平凡パンチ』などで執筆を開始。日本で初めてスポーツライターを名乗る。現在の肩書きは、スポーツ文化評論家・音楽評論家。日本経済新聞や雑誌『ZAITEN』『スポーツゴジラ』等で執筆活動を続け、BSフジ『プライムニュース』等でコメンテーターとして出演。主な書籍は『スポーツは何か』(講談社現代新書)『今こそ「スポーツとは何か?」を考えてみよう!』(春陽堂)など。訳書にR・ホワイティング『和を以て日本となす』(角川文庫)ほか。
 

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