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通算208勝右腕はなぜ「サイン暴露」を行ったのか。アストロズ不正行為の正当化? それとも…

節丸裕一

2020.10.12

風変わりな人物として知られるグレインキーだが、過去には超有望株という重圧から社会不安障害に陥った過去もあった。(C)Getty Images

風変わりな人物として知られるグレインキーだが、過去には超有望株という重圧から社会不安障害に陥った過去もあった。(C)Getty Images

 上記コラムは、ア・リーグ地区シリーズの直後に書いたものだ。しかしその後、読者の方からの指摘もあって現地メディアの記事を読んだところ、グレインキー本人は「サインの暴露」「球種の予告」を否定しているようだ。

「スライダーを投げることを伝えたのではなく、サインセットを変えていた」という。
そんなのは言い訳だ、という考えもあるかもしれないが、よくよく思い返せばグレインキーの言う通りかもしれない、と僕は思い直した。

 かつてグレインキーは社会不安障害という困難を抱え、チームを離脱した経験を持つ。08年にスプリング・トレーニングの取材でアリゾナに行った際、その年からロイヤルズに移籍した薮田安彦さんからこんな話を聞いた。

「ひとりだけみんなと同じように行動しない選手がいるんです」。当時の薮田さんはグレインキーの事情を知らなかったため、「どうして誰も何も言わないんだろう」と不思議に思ったと話していた。
 
 その年から12年連続2ケタ勝利を挙げ、社会不安障害は克服したように思えるが、選手にサインを頼まれた時に「疲れるから嫌だ」と拒否したとか、バスを待たせるチームメイトに苛立ち、その選手のスーツケースを放り投げたなど、さまざまな逸話がある。

 今回も、8月の「サイン暴露騒ぎ」の際は、指によるシグナル以外に球種を口に出していたように見えたシーンも多々あったわけだが、それも「ランナーが二塁にいるのが好きじゃない」「早くこの状況を終わらせたかった」と弁明していた。当時、僕は怒りの方が先に立ち、「下手な言い訳」だと思ってしまったが、実は彼の本音だったのかもしれないと思い直している。

 彼が困難を抱えながら乗り越えてきたこと、そして今も「変わっている」と思われる彼の言動はそうした困難が一因かもしれないことを思うと、今回、かなり厳しい言葉で彼を批判してしまったことは撤回して、謝りたい。

 そして、仮にグレインキーの意図によらずとも、彼のマウンド上での言動で球種がバレることがあったとしても、その結果とサイン盗み問題は切り離して考えた方が良さそうだ。

文●節丸裕一

【著者プロフィール】
せつまるゆういち。フリーアナウンサー。早稲田大学を卒業後、サラリーマンを経てアナウンサーに転身。現在はJ SPORTSなどでプロ野球やMLB中継を担当。フジテレビONE『プロ野球ニュース』にも出演
 
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