専門5誌オリジナル情報満載のスポーツ総合サイト

  • サッカーダイジェスト
  • WORLD SOCCER DIGEST
  • スマッシュ
  • DUNK SHOT
  • Slugger
プロ野球

絶望の淵から這い上がったサブマリン。オリックスのドラ4・中川颯がプロ野球選手の夢を掴むまで

北野正樹

2021.02.17

 最悪の選択をしなかったのは、自身のなかで野球の存在の大きさと、これまで支えてくれた人々の存在を再認識したためだ。

「こんな辛い思いをしてきてなぜここまで辞めずに来られたのか、ある晩に考えてみたことがあり、あることに気づいたのです。『俺はただ単純に野球が好きでやっている訳ではなく、野球に対しての愛情や情熱がこの16年間で知らぬ間にとてつもなく大きくなっている。野球が無意識のうちに〝親〟のような存在になっていた。』というような答えに辿り着いたのです。野球というものが自分の人生でこれほど大きく大切な存在になるものだとは思いもしませんでした」
「(支えてくれた)その人たちのためにも、命果てるまで力の限り頑張りたい、頑張らなければいけない、どんなに辛くても耐え続けなければいけない、もう引き返せない道に立っていてどんな壁にも立ち向かい前に進まなければならない、そんな運命なんだと思いました。ここまでやってきて悔いは全くありませんし、これで良いのだと思っています」
と“告白“は続く。
 
 肉体的、精神的にタフでなければ生き残ることのできない実力の世界に入るのに、なぜ自分の弱い部分をさらけ出したのか。「強がっているより、気持ちが吹っ切れるから思い切って(書いても)いいかなと思った。限界までいくと何でも吹っ切れる」と中川。どん底を味わい、這い上がって壁を乗り越えた自信がそう言わせるのだろう。

 自主トレ、キャンプで数度ブルペン入り。小林宏2軍監督は「(浮き上がってくる)軌道が面白い」と評価し、高山郁夫投手コーチも「球速より、軌道や思ったより指にかかっていて面白いと思った」と口をそろえた。

「今は野球が楽しい。これからもしんどいことがあるかもしれないが、(苦しんだ)あの頃と比べたら。結果の世界なのでダメならダメで終わるが、悔いのないような野球人生を送りたい」

 貴成さんからはプロ入りが決まり「ここまでよく頑張ったな」と声をかけられたそうだ。

 精神的な弱さを克服、人間的にもさらに成長し、「中川颯」は颯爽とプロの階段を昇っていく。

文●北野正樹(フリーライター)

【著者プロフィール】
きたの・まさき/1955年生まれ。2020年11月まで一般紙でプロ野球や高校野球、バレーボールなどを担当。南海が球団譲渡を決断する「譲渡3条件」や柳田将洋のサントリー復帰などを先行報道した。

【宮崎キャンプPHOTO】オリックス|25年ぶりのリーグ優勝を目指すオリックスのキャンプに密着!

RECOMMENDオススメ情報

MAGAZINE雑誌最新号