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MLB

大谷翔平がエンジェルスを“卒業”する日――ワールドチャンピオンを目指すならFA移籍は不可避?〈SLUGGER〉

久保田市郎(SLUGGER編集長)

2022.03.11

過去MVPを3回受賞の最強トラウト。エンジェルスと2030年までの契約を結んでいる。(C)Getty Images

過去MVPを3回受賞の最強トラウト。エンジェルスと2030年までの契約を結んでいる。(C)Getty Images

 もっとも、大谷一人を引き留めるだけなら、決して不可能ではない。問題はそれで「勝てるのか」ということだ。全盛期を過ぎた(可能性が高い)トラウト、レンドーンを抱えた上に大谷にも大金を払い、さらに戦力均衡税の枠内で優勝を争うロースターを構築するのは限りなく“無理ゲー”に近い。

「レイズは貧乏球団でも勝っているじゃないか」という人もいるかもしれない。確かにその通りだ。しかしながら、レイズとエンジェルスには決定的な違いが2つある。
 
 まずはマイナー組織の充実度だ。レイズの場合、ランディ・アロザレーナ、シェーン・マクラナハン、ワンダー・フランコといった新鋭が毎年のようにメジャーの舞台に登場し、マイナーからの絶え間ない人材供給システムが完全に構築されている。

 一方、今年8月にMLB公式サイト『MLB.com』が発表したファーム組織充実度ランキングで、エンジェルスは全30球団中24位だった(『ベースボール・アメリカ』誌では25位)。ブランドン・マーシュとジョー・アデルがプロスペクト枠を卒業し、現在最も高い評価を集めているのは先発左腕のリード・デトマース。しかし、将来像は先発3~4番手と言われ、一人でチームを変えられるような存在ではおそらくない。

 地元紙『ロサンゼルス・タイムズ』のマイク・ディジオバーナはエンジェルスのマイナー組織について「ハイオクの資質を持った投手は数人いる」としながらも、「全体的に層が薄く、パワーの潜在能力を持った野手が少ない」と指摘。「数年前に比べればマシだが、MLB全体では下位3分の1に位置する」と総括する。

 日本プロ野球やNBA、NFLと違って、MLBでは「ドラフト即戦力」は存在しないに等しい。そのため、ファーム組織の状況が一夜にして激変することもない。言い換えれば、戦力解体でもしない限り、2年後のエンジェルスがプロスペクトの宝庫になる可能性は限りなく低い。
 
 レイズとのもう一つの違いは「補強センス」だ。他球団で埋もれていた選手に“魔改造”を施して開花させるのをお家芸にするレイズに対し、エンジェルスではそうした「お宝発掘」の例が皆無に近い。逆に、このオフのループにしてもイグレシアスにしても、市場で最高値がついた状態で獲得するので、どうしても割高になりやすい。
 
 そもそも、シーズンごとに成績が変動しやすく、比較的替えも利きやすいクローザーに気前良く大型契約を与えるチームはMLB全体で減っている。例えばアストロズは、ライアン・プレスリーが年俸1000万ドル、ヘクター・ネリースが850万ドル、ペドロ・バイエズが550万ドルと、抑え経験のある複数の投手にうまくリスクを分散している。イグレシアスと「一蓮托生」のエンジェルスとは好対照だ。

 すでに複数の超大型契約を抱え、ファーム組織も充実しているとは言えない状態、フロントの補強センスにも疑問符というなかで、今後に果たして劇的な戦力上昇を見込めるだろうか。
 
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