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MLB

大谷翔平はフィリーズでプレーするべきだ!――ブライス・ハーパーとフィラデルフィアの幸福な関係を見て思うこと<SLUGGER>

ナガオ勝司

2023.10.16

 ハーパーは、2010年のドラフト全体1位指名でワシントン・ナショナルズに入団した。マイナー2年目が始まってすぐメジャーに昇格し、19歳にしてオールスターに出場、その年の新人王にも輝いた。

 5年後の15年には、42本塁打で本塁打王を獲得し、満票でナ・リーグのMVPに選出された。「超」がつくほどのスーパースターはしかし、ナショナルズではポストシーズンに出場しながらも、優勝に縁がなかった。おまけに、FAとなって史上最高額(当時)の13年3億3000万ドルでフィリーズと契約した19年には、古巣のナショナルズが球団史上初のワールドシリーズ制覇を成し遂げた。

 洗練されたFA制度のあるMLBでは、高年俸になる主力選手が移籍した途端、チームが優勝するのはよくある話だが、ハーパーにとっては何とも皮肉なことだった。

 だが、フィリーズはハーパー入団と前後して打ではリース・ホスキンス一塁手や、ブライソン・ストット二塁手、投では前出の先発のノアや、左腕レンジャー・スアレスを育成しながら、地元ファンに対して「何が何でも勝つ」姿勢を示した。

 つまり、マーリンズで活躍したJT・レアルミュート捕手や、タイガースやレッズで活躍したカステヤノス、2016年のカブスのワールドシリーズ優勝にも貢献したカイル・シュワバー、21年に首位打者に輝いたトレイ・ターナー遊撃手、サイ・ヤング賞候補の常連ザック・ウィーラー投手らをトレードやFAで次々に補強したのは、フィラデルフィアという町あってのことだったのだ。

 その成果が昨年、ワイルドカードからカーディナルス、ブレーブス、パドレスを連破しての11年ぶりのナ・リーグ優勝だった。それは「メジャー最高のホーム・アドバンテージ」と呼ばれるほどの熱狂を、地元フィラデルフィアにもたらした。
 
 そして今年も、東海岸のタフな街で、リーグ優勝決定戦が行われることになった。

 第3戦の最中、フィリーズが10対2と大差を付けた終盤、フィラデルフィアの地元ファンは家に帰ることなく、第4戦を見据えて、こう連呼し始めた。

「We want Strider! We want Strider!」

 ブレーブスの実質上のエースで、今季の最多勝&最多奪三振投手でもあるスペンサー・ストライダーはすでに、第4戦の先発として発表されていた。「We want Strider!」というのはもちろん、チームに欲しいという意味ではなく、「ストライダーをやっつけてやる!」という意味だ。

 そして、ファンがそう叫んだ通り、フィリーズは続く第4戦もストライダー攻略に成功し、3勝1敗で格上のブレーブスを倒してリーグ優勝決定シリーズに進出した。

「俺たちのファンが世界一だって言うのは、そういうところだよ」(ハーパー)。

 大谷にもいつかは、そんな風に感じて10月のベースボールを「愉しんで」ほしい。

 世界最高と呼ばれる選手になったからこそ、「何が何でも勝つ」チームでプレーし、「相手が誰だろうが関係ねぇ。ぶっ飛ばしてやる」という気持ちを持つファンの前で、プレーしてほしいと思う――。

文●ナガオ勝司

【著者プロフィール】
シカゴ郊外在住のフリーランスライター。'97年に渡米し、アイオワ州のマイナーリーグ球団で取材活動を始め、ロードアイランド州に転居した'01年からはメジャーリーグが主な取材現場になるも、リトルリーグや女子サッカー、F1GPやフェンシングなど多岐に渡る。'08年より全米野球記者協会会員となり、現在は米野球殿堂の投票資格を有する。日米で職歴多数。私見ツイッター@KATNGO

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