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殿堂入り投票で「人格」をどこまで重視するべきなのか――確実に変わる時代の中で曖昧な姿勢は許されなくなってきた<SLUGGER>

ナガオ勝司

2024.01.31

 候補者の「人格」を考慮せずに投票したことが、米野球殿堂の尊厳を守る努力をしなかったことになるのなら、カート・シリングに投票した過去もまた、同じ意味合いを持つだろう。

 シリングはダイヤモンドバックス時代、殿堂入り左腕のランディ・ジョンソンとともにヤンキースのワールドシリーズ4連覇を阻止し、レッドソックス時代にも2度、同シリーズに優勝した「MLB屈指のポストシーズンに強いピッチャー」だった。それはポストシーズン通算19試合に登板して11勝2敗、防御率2.23という成績が証明している。

 ところが現役引退後、イスラム教徒をナチスドイツに準えるツイート(現X)をしたり、フェイスブックでLGBT蔑視の画像を投稿したりと、「人格」を疑われるような言動で炎上した。元オリックスのアダム・ジョーンズ(当時オリオールズ)が、レッドソックスの本拠地フェンウェイ・パークで人種差別的な罵声を浴びせられたと告発した際には、「(ジョーンズは)嘘をついている」と糾弾し、いわゆる「ポリコレ」勢力からも総スカンを食らい、2021年、ワシントンDCの議事堂に乱入したトランプ支持者の暴挙を「民主主義と政府の腐敗に対して立ち上がった」と擁護するなど、日本で言う「ネトウヨ」色を強くし、殿堂投票で伸び悩んで21年を最後に候補者資格を失っている。

 私はそれまで、「グラウンドでの出来事」のみを念頭に置いて各賞に投票していたが、シリングの一件から考えが変わりつつある。「言論の自由」や「個性の尊重」が全体主義のような偏向した考え方の如く、勢いを持つ米国社会では、それが性的少数派についてだろうが、米政権のイスラエル支持についてだろうが、「自分は日本人だから」というのは通用せず、「どちらでもいい」などと逃げるのは、許されざる状況になっている。
 殿堂投票においてもそれは同様で、すでに野球殿堂入りしている人々の「人格」までは問わないものの、これからの投票ではシリングを苦しめた「ポリコレ」に、我々もまた直面している。K-RODやビスケル、あるいはシリングを「20年以上前なら殿堂入りしていたのに」などと言うつもりはないが、時代は確実に変わったのだ。

 だから、私もどうやら、殿堂投票の在り方を根本的に考え直す時期に来ているのだと思う。そして、その考えが今後1年で大きく変わらない限り、来年は「投票は選手の成績、プレー能力、誠実さ、スポーツマンシップ、人格、そして、所属したチームへの貢献度に基づく」という投票ルールをこれまで以上に遵守することになりそうだ。

 その1年目にイチロー氏という絶対的な存在がいることは、何とも心強かったりするのではあるが――。

文●ナガオ勝司

【著者プロフィール】
シカゴ郊外在住のフリーランスライター。'97年に渡米し、アイオワ州のマイナーリーグ球団で取材活動を始め、ロードアイランド州に転居した'01年からはメジャーリーグが主な取材現場になるも、リトルリーグや女子サッカー、F1GPやフェンシングなど多岐に渡る。'08年より全米野球記者協会会員となり、現在は米野球殿堂の投票資格を有する。日米で職歴多数。私見ツイッター@KATNGO

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