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MLB

ベースボールとファミリーをつなぐ存在へ――田澤純一が持ち込んだハイチュウはいかにアメリカで市民権を得たか<SLUGGER>

ナガオ勝司

2023.10.25

レッドソックスでは上原浩治につなぐセットアップとして13年の世界一に貢献した田澤。彼にはもう一つの“功績”があった。(C)Getty Images

レッドソックスでは上原浩治につなぐセットアップとして13年の世界一に貢献した田澤。彼にはもう一つの“功績”があった。(C)Getty Images

 メジャーリーグのポストシーズンが長くなって以来、Holloween=ハロウィーン(10月31日)になっても、ワールドシリーズが行われるようになった。今年もダイヤモンドバックス対レンジャーズの第4戦がアリゾナ州フェニックスで行われる予定になっていて、試合が始まる前後は、ハロウィーンの主役である子供たちが、魔女や吸血鬼のコスプレをして近隣の家庭を訪問し、キャンディー(米国ではお菓子の総称)を集めているだろう。

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 メジャーリーグとキャンディーには一見、何のつながりもないようだが、いつだったか、史上最多の7度のサイ・ヤング賞を獲得したロジャー・クレメンス投手が、リトルリーグの試合に出かける長男に「エネルギーを補給しろ」と言って、キャンディーを渡したというエピソードがテレビ中継で紹介されたことがある。

 クレメンスが長男に渡した「キャンディー」というのは、チョコレート菓子の「スニッカーズ・バー」で、日本なら「飴」を連想させるキャンディーが、お菓子の総称のように使われていることがなぜか印象的だった。

 いくら糖質補給のためとはいえ、キャンディー=お菓子を子供に与えるところが、アメリカ人らしいと言えばアメリカ人らしい。そもそも、メジャーリーガーは、お菓子と切っても切り離せない関係にある。

 メジャーリーグの試合を現地で見たことがある人なら分かると思うが、試合開始直前、救援投手陣の一人(通常は新人)が、バックパックにチューイガムやら、スニッカーズ・バーやらを詰め込んで、ブルペンに向かう姿をよく見かける。クラブハウスやダグアウトにも、お菓子の缶が置かれていて、マウンド上のピッチャーをはじめ、選手たちが口を動かしている姿も普通の光景だし、高校や大学野球の選手もお菓子を口にしながら試合をしている。
 そういったベースボールの風景の中に、日本のお菓子=ハイチュウを見かけるようになったのは、この十年ぐらいのことだ。

 我々日本のメディアが現場で最初にハイチュウを目にしたのはおそらく、レッドソックスの田澤純一投手(現ENEOS)がブルペンに持ち込んだ時だろう。

 2013年、レッドソックスのセットアッパーとなった田澤は、クローザーの上原浩治氏や、左腕クレイグ・ブレスロウらと「勝利の方程式」を形成してワールドシリーズ優勝に貢献したが、彼らが試合中に陣取っているブルペンにはいつも、チューインガムやヒマワリの種とともに、田澤が持ち込んだハイチュウが置かれていた。現在、カブスのGM補佐を務めるブレスロウなどは当時、「『食べられるガム』みたいな感じで、画期的な食べ物だと思った」と語っており、やがてブルペンだけではなく、ダグアウトやクラブハウスにも普通に置かれるようになった。

 もはやハイチュウはメジャーリーグで「物珍しい外国のお菓子」などではなく、彼らが登板までに大量に消費するガムやヒマワリの種と同じように、ある種の「市民権」を得るようになったわけだ。

 あれから10年、ハイチュウは球場だけではなく、米国のスーパーマーケットやドラッグストアの「Candy Isle(キャンディー・アイル)」、すなわちお菓子売り場でハイチュウ=HI-CHEWを見かけるようになった。ハイチュウがオレオのクリームサンド・クッキーやスニッカーズ・バー、あるいはM&Mチョコレートと並べられるなんてことは、ひと昔前には考えられなかったことである。

 この10年の間に一体何が起こったのだろうか?
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