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トライアングル・オフェンスではジョーダンの得点力がネックに?システムの創始者が語る、ブルズ戦術の舞台裏

北舘洋一郎

2020.05.13

ウィンター曰く、トライアングル・オフェンスではジョーダン(中央)よりもピッペン(左)とクーコッチ(右)が中心だったと話す。(C)Getty Images

 1990年代に到来した、シカゴ・ブルズの黄金期。2度の3連覇を成し遂げたわけだが、そのカギを握っていたのは、トライアングル・オフェンスとリバウンドだった。

 トライアングル・オフェンスとは、常に3選手で"三角形"を作りながら展開していく攻撃システムのこと。しかし、これを3人のスター選手――後期スリーピートを達成した1995~98年で言えば、マイケル・ジョーダン、スコッティ・ピッペン、デニス・ロッドマンの"ビッグ3"――を中心に形成される戦術と考えるのは正しくない。

 確かに、この3人は歴代最高のトリオとも言えるだろう。しかし、トライアングル・オフェンスは彼らが主役ではないのだ。

 このシステムは、選手たちが自己判断と互いの連携により、常に三角形の3つの頂点を作るように動き続け、パスを回しながら絶えず状況を変化させていくオフェンス方法だ。"トライアングル"という言葉から、あたかもビッグ3が中心になっているかのように思われることがあるが、実はジョーダンとロッドマンが参加せずにオフェンスが開始されることも多くあった。
 
 この戦術の生みの親であるテックス・ウィンターによれば、トライアングル・オフェンスはピッペンやトニー・クーコッチのようなタイプの選手にこそ最適とのこと。長身でありながらボールを器用に操り、シュートもパスも一級品。身体能力任せのプレーをせず、広い視野で状況を見渡すことができる。だから、1996-97シーズンのトライアングル・オフェンスは、ピッペンとクーコッチが中心だったとウィンターは話す。

「ジョーダンはスコアラー、ロッドマンはリバウンダー。2人はトライアングルをコントロールするポジションではなく、それぞれ抜群に特化した能力をフルに発揮するマシンとして徹してくれればいい。ジョーダンはトライアングルをコントロールするには得点能力がありすぎた。それが唯一のネックだったのかもしれない(笑)」

 またウィンターは、72勝をあげた1996年、69勝をマークした1997年と、2シーズン連続で8割以上の勝率を残せたのは、ふたつの約束事を守ったことで得られた結果だと評している。"ジョーダンとロッドマンがトライアングルから外れ、オフェンスがセットされて3プレーが終わるまではボールに絡まず、バランスのいいポジションをキープし相手を守りにくくさせたこと"、"ボールを持った選手は3秒以上同じ場所にとどまらず、シュート、パス、ドリブルのいずれかのプレーを開始すること"。このふたつのルールが、好成績へとつながったという。
 
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