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前評判を一蹴し、ブルズの“ラストピース”となったロッドマン。実は気弱で繊細な男の激動の人生【NBAレジェンド列伝・後編】

出野哲也

2020.05.14

かつての仇敵ブルズへの入団時は不安視されたが、コート上では献身的なプレーで3連覇に貢献した。(C)Getty Images

 シカゴ・ブルズが最後に優勝した1997-98シーズンの密着ドキュメンタリーシリーズ『ザ・ラストダンス』(全10話)の放映が始まり、マイケル・ジョーダンをはじめとした当時の優勝メンバーが改めて脚光を浴びている。黄金期を支えた輝かしい選手たちの中にあって、とりわけ異彩を放っていたのがデニス・ロッドマンだ。けばけばしく染めた髪、タトゥー、ピアス、暴言、女装、アバンチュール……彼は危険人物であり、セックスシンボルであり、尊敬すべきリバウンダーだった。NBA史上、他に類を見ない異端のヒーローのキャリアを前後編で振り返る。

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 当時、ブルズはホーレス・グラントの退団でパワーフォワードの補強が急務となっていた。それでも、選手やファンから蛇蝎のごとく嫌われていたロッドマンを加えるなどあり得ない考えに思えた。ある記者は「ジェフリー・ダーマー(90年代にアメリカを震撼させた連続殺人犯。犠牲者の遺体を食べたことでも有名)を料理長に迎えるようなものだ」と表現したほどだ。
 
 それでもフィル・ジャクソンHCは、この猛獣を手なずけられると確信していた。「チームのルールさえ守れるなら、コートの外で何をしてもかまわない」とジャクソンは言い渡し、ロッドマンも「フィルは(チャック)デイリーのように、俺を人間として扱ってくれる」と従った。ジョーダンの存在も大きかった。バスケットボール界最高の選手の言葉に耳を傾けない選手なら、誰の言うことも聞けないはずだからだ。

 目論見通り、ロッドマンはブルズの救世主となった。気まぐれな言動や行動は相変わらずでも、ジャクソンが手綱をしっかり握っていたので、チームの規範は乱れなかった。何より、ジョーダンとスコッティ・ピッペンの二大スターが攻撃の大半を担うブルズのプレースタイルに、リバウンドとディフェンスだけに集中するロッドマンはピタリとはまった。この年ブルズは年間72勝という当時のリーグ新記録を樹立。NBAファイナルでもシアトル・スーパーソニックス(現オクラホマシティ・サンダー)を下して3年ぶりに王座に返り咲いた。
 
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時代の変化も手伝い、ロッドマンの人気は絶頂に