NBA

就任1年目からグリズリーズを浮上させた35歳の熱血漢、テイラー・ジェンキンスのコーチキャリア

杉浦大介

2020.01.20

ジェンキンスはルーキーのモラント(左)らを軸に、就任1年目からチームをプレーオフ圏内に導いている。(C)Getty Images

「コーチ・バド、あなたは私を信頼し、大きな責任を授けてくれました。毎日向上するようにけしかけ、ヘッドコーチに進むだけの準備をさせてくれました。あなたには感謝しているし、愛しています」

 昨年6月、メンフィスで行なわれたグリズリーズの新ヘッドコーチ(HC)就任会見の際、テイラー・ジェンキンスは涙を流しながらそう語った。コーチ・バドとは、過去6年にわたって師弟関係を築いてきたミルウォーキー・バックスのマイク・ブーデンホルザーHCのこと。そんな熱い姿勢と言葉は、アットホームな小規模マーケットのメンフィスの人々にも好まれるに違いない。

 昨季33勝49敗に終わったグリズリーズは、シーズン終了直後の4月11日にJB・ビッカースタッフHCを解雇。その後釜に、当時34歳の青年コーチを選んだ。

 ジェンキンスは2013~18年はホークス、18-19シーズンはバックスでブーデンホルザーのアシスタントとして経験を積んだ。昨季のバックスは60勝をあげ、ブーデンホルザーは自身2度目の最優秀コーチに選出された。その門下生であるクイン・スナイダー、ケニー・アトキンソンもそれぞれユタ・ジャズ、ブルックリン・ネッツで指揮を執り、チームを上昇気流に乗せている。
 
 テキサス州ダラス出身のジェンキンスは、いわゆる"アイビーリーグ"に属するペンシルバニア大ウォートン校で経済学の理学士号を取得。さらにマネージメント、心理学も集中的に学んだという秀才だ。祖母のコネクションもあって、07年にサンアントニオ・スパーズのバスケットボール・オペレーション部門のインターンとしてこの業界に足を踏み入れた。子どもの頃からダラス・マーベリックスのファンだったが、同地区のスパーズとの面接の際、「マブズが私の故郷チームですが、スパーズとティム・ダンカンにも大きな敬意を抱いています」と答えたというエピソードも残っている。

 聡明さと真面目な姿勢を兼ね備えたジェンキンスが、出世の階段を上り始めるまでに時間はかからなかった。28歳でDリーグ(現Gリーグ)チーム、オースティン・トロズ(現オースティン・スパーズ)のHCを任されると、1年目でチームをセミファイナルまで導く。その功績をブーデンホルザーに認められ、NBAでもアシスタントコーチとして実績を築き上げた。

 こうした経歴を見ると、頭脳明晰、冷静沈着な才人タイプと思うかもしれない。ただ、ジェンキンスは冒頭の恩師へのコメントが示す通りの熱血漢。昨プレーオフ1回戦で小競り合いが起こった時には、控え選手たちは誰も立ち上がっていないのにも関わらず、自軍ベンチ前で「コートに入るな!」と必死で静止しようとする姿がソーシャルメディアで拡散した。聡明なだけでなく、このような熱い姿勢が選手たちに好影響を与えるのは間違いないだろう。