NBA

“打倒アイバーソン”に異常なまでの執念を燃やした、コビーの常軌を逸したライバル心

大井成義

2020.01.29

キャリア初期、打倒アイバーソンに異常なまでの執念を燃やしたコビー。その没頭ぶりは常軌を逸していた。(C)Getty Images

■打倒アイバーソンにすべてを懸けたコビー

 1960年代のビル・ラッセルとウィルト・チェンバレン、1980年代のマジック・ジョンソンとラリー・バードなど、同じ時代に同世代のスーパースター2人が存在した例は、これまでに何度かあった。近代では、コビー・ブライアントとアレン・アイバーソンが当てはまる。

 ただ、大舞台での直接対決は2001年ファイナルの1度きりで、マジック対バードのようなライバル感は希薄だった。現役中、相手についてじっくり言及したこともあまりない。試合中に険しい表情で言葉のやり取りをし、ヒートアップしたシーンは何度か見たことがあるものの、それはあくまでもその場限りのいざこざで、お互い相手のことはさほど意識せず、ライバル心もそんなに持ち合わせていないと思っていた。

 だが、その考えは大間違いだった。2017年4月、元ヤンキースのデレク・ジーターが創設した、プロアスリートが自分の言葉で文章を綴る『プレーヤーズ・トリビューン』というメディアに、コビーがエッセイを寄稿した。その中で、自分がどれだけアイバーソンに強迫観念やライバル心を持っていたか、赤裸々に告白。その内容は、あまりに衝撃的だった。

 デビュー1年目のある日、アイバーソンがニックス戦で35得点をマークし、自分はロケッツ戦で2得点しか取れなかった。試合後、ホテルの部屋でスポーツニュースを見ていたコビーは、我を失い、テーブルをひっくり返し、椅子をぶん投げ、テレビを破壊。自分は努力が足りないのか? その後さらに練習に励んだ。
 
 2年半後、直接対決でアイバーソンは41得点、10アシストを記録。ハードな練習だけではアイバーソンに勝てない。そう悟ったコビーは狂気じみたレベルで、アイバーソンについて徹底的に調べ始めた。彼に関して書かれたすべての記事をチェックし、本を読み漁り、プロ入りする前を含めすべての試合映像を観た。そして弱点を徹底的に探求。挙げ句の果てには、南アフリカの海岸でホホジロザメがいかにアザラシを仕留めるかまで調べた。

 キャリアの初期、コビーはアイバーソンに強迫観念を抱き、完全に取り憑かれていたのだという。打倒アイバーソンが、彼にとって最大のモチベーションだった。

 一方のアイバーソンも、コビーの引退に際し珍しくメッセージを寄せている。社交辞令とは無縁の男からのメッセージだけに、胸を打つものがある。

「マンバヘ。他の選手からは一度もなかったが、君はとても多くのものを俺から引き出してくれた。コビー・ブライアントのような選手は、今後二度と現われないだろう」

 表からは見えにくかったが、2人は常人には計り知れない、特別なライバル関係にあったようだ。そしてそれは、ある意味特殊な友情の裏返しだったのかもしれない。

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文●大井成義

※『ダンクシュート』2017年11月号掲載原稿に加筆・修正。
 
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