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NBA

逆境を何度も乗り越えてきた男フェスタス・エジーリ。2015年ウォリアーズ優勝戦士の現在<DUNKSHOOT>

小川由紀子

2021.05.22

 フランス代表のメディカルスタッフで、ルディ・ゴベアやニコラ・バテュム、カーメロ・アンソニーらも担当しているファブリス・ゴーティエのもとでオステオパシー(自然治癒力を最大限に活かした医学)を受け、心理カウンセラーからは精神面のケアも受けた。

 彼にとって難しかったことのひとつは、移植をしたことで、自分の身体の一部が自分のものではなくなったという感覚から、再び自分の体の能力を信じることだったという。

 自分の治療のために、ドナー=誰かが亡くなるのを待つ、というのも辛い体験だった。彼は、手術を担当した医師を通して、ドナーの家族に「いつか会ってお礼がしたい」という手紙を綴っている。

 そんな心身両面での苦難を乗り越え、手術から3年後の昨年3月、彼はニューヨーク・ニックス傘下のGリーグチーム、ウィンチェスター・ニックスの一員として公式戦のコートに立った。直後にコロナ禍で中断となったため、出場したのは2試合のみ、計9分間のプレータイムだったが、その短い間に5リバウンド、1ブロックと得意技を披露した。

 そして今年の4月17日には、故郷ナイジェリアのプロクラブ、リバース・フーパースと契約。今年から始まったバスケットボール・アフリカリーグ(BAL)参戦のための強化要員として迎えられたが、合流後まもなくトレーニングで右ヒザを痛め、約4週間の離脱となってしまった。今年のBALは、5月16日から30日までのバブル形式で行われているため、残念ながら今回は出場が叶わない。
 
『太陽が射したかと思えば雲が翳り、という繰り返し』だと本人はインスタグラムに綴っているが、すでにコートで軽い練習をできるまでに回復した彼の思いはすでに、次なる目標に向けられている。

 ナイジェリア代表での東京オリンピック出場だ。

 さらにNBA復帰も諦めていない。ウォリアーズファンのポッドキャストでは、「何人かのコーチやGMたちと話をしているし、もちろんゴールデンステイトには友人、知人が何人もいて、みんな興味を示してくれている」と話し、昨年2月には、オーナーのジョー・レイコブの隣でウォリアーズ戦を観戦している。

 バスケ経験の浅い彼はIQやスキルに秀でてはいないが、チームのために身体を張り、自分ができる仕事を全力でまっとうする選手だけに、ウォリアーズファンの間でも「健康体に戻ったらまた戻ってきて欲しい」という声は多い。

“Festus”は、アメリカにきてからの通り名で、本来のファーストネームは、“Ifeanyi Chuku”という。ナイジェリアの現地語で、『神がいれば、不可能はない』という意味だ。

 12年のドラフトの夜、自分の名前がボードに書かれているのを見て、彼は「『不可能なことなんてないんだ』と本気で自分に言い聞かせた」という。

 その思いが、何度逆境が訪れても立ち上がる力を、彼に与えてくれている。

文●小川由紀子
 
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