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Jリーグ・国内

盟友ビジャと自分の夢のために――イニエスタがタイトルに懸ける熱き想い【天皇杯決勝プレビュー】

白井邦彦

2019.12.31

言わずと知れたワールドクラスのMF、アンドレス・イニエスタ。18年夏にバルセロナから電撃的に加わると“魔術”とも評される巧みなテクニックで日本のサッカーフリークを魅了し続けている。(C)SOCCER DIGEST

言わずと知れたワールドクラスのMF、アンドレス・イニエスタ。18年夏にバルセロナから電撃的に加わると“魔術”とも評される巧みなテクニックで日本のサッカーフリークを魅了し続けている。(C)SOCCER DIGEST

 2019年11月、元スペイン代表のダビド・ビジャが今季限りでの引退を表明した。「サッカーに引退させられるのではなく、自分の意志で引退したい」。そんな盟友の記者会見を、アンドレス・イニエスタは特別な想いで見つめていた。

「悲しいニュースでした。僕にとってはかけがえのない友人。できればもっと長く一緒にプレーしたかった。でも、彼の気持ちをなによりも尊重したい」

 少しでも長く一緒にプレーするには、天皇杯を勝ち進むしかなかった。決勝まで進めば、2020年元日まで神戸での時間を共有できる。だからこそイニエスタは天皇杯に懸けていた。32節でチームがJ1残留を決めてから、9月に負った右足親指の骨折の回復に努めてきたのは、ビジャの引退に華を添えたいという願いがあるからだ。

 さらに、盟友とのラストダンスを心待ちにするイニエスタが、このタイトルに燃えているのは、「ヴィッセル神戸というクラブを大きくする」という自分の夢のためでもある。

 天皇杯で優勝すれば、来季のACL出場権が得られる。アジアナンバーワンクラブを目指す神戸にとっても、イニエスタにとっても、天皇杯の初戴冠は大事な通過点になるわけだ。

 19年4月にキャプテンを担ってから、彼の夢への想いはより強くなった。キャプテン就任時の記者会見での一幕からも、その想いの強さが垣間見える。もう一度バルセロナでプレーしたいか、と記者から問われ、彼はこう答えた。
 
「バルセロナを去る決断をしたのは、そこでの時間が区切りを迎えたと考えたから。今はヴィッセル神戸の一員として何ができるかを考えてプレーしている。バルセロナという街に戻ることはあるでしょうが、バルセロナというチームでプレーすることはない」

 その頃から、味方にアドバイスを送る姿をよく目にする。主将の責務を負い、より必死にチームの成長を追い求めるようになったのかもしれない。

 そこに「ビジャとともに天皇杯を掲げる」という目標が加わり、“必死さ”はさらに強くなった。準決勝の清水戦では、身振り手振りで味方に指示を送り、ジャッジを巡って審判に詰め寄るシーンもあった。激しいチャージを何度受けても立ち上がり、古橋がチームの3点目を決めた時には、彼の髪の毛をくしゃくしゃにして祝福し、喜びを爆発させた。淡々とプレーしていた昨季の姿は、そこにはなかった。

 優勝のキーマンを問われれば、満場一致でその名が挙がるだろう。誰もが、盟友のために、チームのために、そして自身の夢のために、必死にひた走る背番号8を楽しみにしている。

「神戸が初タイトルを取る可能性のある舞台に、自分がいることを本当に嬉しく思う。決勝戦が難しい試合になることは分かっている。でも、タイトルを取るために全力を出したい」

 そしてイニエスタこそが、誰よりもこの舞台に胸を躍らせているのだ。

文●白井邦彦(フリーライター)

※『サッカーダイジェスト』2020年1月9日号より転載
 

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