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“重荷”の側面もある39歳のC・ロナウドが、先発起用される理由とは? 「並外れた勝利への執念、“ロナウド劇場”がチームの感情を揺さぶり――」【EURO2024コラム】

片野道郎

2024.07.04

ここまでの全4試合に先発しながら、いまだ得点のないC・ロナウド。準々決勝のフランス戦で前人未踏のEURO6大会連続&最年長ゴールを成し遂げられるか。(C)Getty Images

 スロベニアがゴール前に築いた堅固な砦を攻略できず、0ー0で延長戦にもつれ込んだ末にPK戦でようやく勝利を掴んだポルトガル。この試合の絶対的な主役が、延長後半にベンヤミン・シェシュコとの1対1を見事にセーブして致命傷になりかねないピンチからチームを救っただけでなく、PK戦で3連続セーブを演じたGKディオゴ・コスタであることは間違いない。

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 しかしこの試合のストーリーには、忘れるわけにはいかないもうひとりの主役が存在する。それがポルトガルの主将クリスティアーノ・ロナウドだ。マンチェスター・ユナイテッドを去り、サウジアラビアのアル・ナスルに活躍の場を移してから約1年半。39歳4か月を迎えてヨーロッパの地に(一時的に)戻ってきた偉大なバロンドールは、その別格と言っていい存在感、勝利への飽くなき執念、そしてそれらがもたらした感情のドラマによって、この試合のシンボルとして記憶され、語り継がれることになるだろう。

 ピッチ上のパフォーマンスを全盛期と比較すれば、衰えが隠せないことは明らかだ。最前線中央でDFと駆け引きを繰り返し、ボールが供給されるのを待つプレースタイルは、純粋なセンターフォワードのそれに近い。中盤に下がってきてビルドアップを助けたり、左サイドに流れてボールを要求し、そこからゴールに向かって強引なドリブル突破を仕掛ける場面も、以前と比べてすっかり少なくなった。守備への参加も最小限。フィニッシュだけに専念する省エネスタイルと言うこともできるが、つまるところそれだけスタミナが限られているということだ。

 2022年のカタール・ワールドカップ後に指揮官の座についたロベルト・マルティネス監督は、最終ラインから前線までほぼ全てのポジションにテクニカルな選手を並べ、自由にポジションを入れ替えながら細かくパスをつないで前進していく流動的なポゼッションサッカーを打ち出している。その中で唯一、最前線中央からほとんど動かずフィニッシュに専念しようとするロナウドは、本来あるべき流動性を制約する要因となっているようにも見える。
 
 それが端的に表れているのが、4試合で97と全チーム中ダントツで多いクロスの本数だ。ポルトガルのようなスタイルなら、最終ラインの攻略は中央3レーンを使ったコンビネーションやスルーパスが主体となって然るべきだろう。そうでないのは、前線中央の流動性が低くスペースが生まれにくいこと、そしてフィニッシャーのロナウドがいま最もゴールを決めやすい形がクロスであることと無関係ではないはずだ。

 ロナウドをCFとして起用する以上、そのロナウドがゴールを決めるために戦術を構築するのは当然のことだ。しかし今大会のロナウドは、今のところそれに応えることができずにいる。4試合でシュート16本、枠内シュート9本はいずれも全選手中トップだが、もし決めればEURO史上最年長得点になるはずのゴールは、いまだやって来ないままだ。

 ポルトガルが一方的に押し込みながらもゴールを奪えないまま、0ー0で迎えた延長前半104分、ついにその瞬間が訪れたかのように見えた。ディオゴ・ジョッタがエリア内で倒されて得たPKは、それまで膠着した展開のまま延長に突入していた試合に決着をつけ、EURO6大会連続ゴールという前人未到の記録を実現するための、これ以上ないビッグチャンスだった。ロナウドのPK成功率の高さはよく知られるところ。事実、この時までに蹴った直近20回のPKはすべて成功しており、最後のPK失敗は2年以上前のマンU時代、FAカップの試合だった。

 ところが、いつもの仁王立ちポーズからロナウドが自信を持って蹴り出したボールは、スロベニアのGKヤン・オブラクにセーブされてしまう。続くコーナーキックからプレーが途切れて延長前半が終わり、ブレイクタイムに両チームが円陣を組んだ時、その中心でチームを鼓舞しているはずのロナウドは、あふれ出る感情を抑え切れず涙にくれていた。チームメイトが次々と彼の肩を抱き慰めにかかる。その中には、ロナウドがかつて代表でその父セルジオともプレーをともにした、21歳のフランシスコ・コンセイソンの姿もあった。
 
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マルティネス監督がC・ロナウドに絶対的な信頼を置く理由は